zinma Ⅲ
ダグラスは目の前のレイシアを見て、今だに信じられない感覚になる。
ルミナ族の存在でさえ、ほとんどの人間がお伽話だと思っているのだ。
それと同じくらい、いやそれ以上に絵空事のような世界にいまダグラスはいて、その世界を生きる存在がいま目の前にいるのだ。
「………率直な質問をしてもいいか?」
レイシアはまだにこにこと微笑みながら、うなずく。
「どうぞ。」
ダグラスは一度息を吸って、吐く。
「君は人間か?」
レイシアは微笑んだまま、一瞬の間を空けて答える。
「いいえ。」
それに顔をしかめそうになりながら、ダグラスはなんとかこらえる。
「産まれたときから?」
レイシアは一度天井を仰いでから、答える。
「んー、微妙です。」
「微妙?」
ダグラスが聞き返すとレイシアは小さく笑い、一度うなずく。
「はは、ええ。
どうやら人間として産まれてくるはずで、人間として母のお腹に宿ったんですが……
産まれるときに、この力を与えられたわけです。」
それからレイシアは右手を顔の前に上げる。
ダグラスがそれを不思議そうに見つめると、レイシアはその右手を軽く振るう。
するとその右手が、青白く輝いた。
ダグラスが声を失っていると、レイシアはまた手を振るって光を消し、言う。
「ご覧のとおり、もうすでに私は人間ではない。
感情も消え去りました。
私に残る人間らしさは……
強いて言えばこの身体くらいですよ。」
また小さく笑うレイシアに、ダグラスはしばらく呆然としてから、聞く。
「……ちなみに、君の力に名前はあるのか?」
元に戻った自分の手を見つめながら、レイシアは答える。
「ルミナ族の文献には、『選ばれしヒト』、と記されています。」
「『選ばれしヒト』…………。」
ダグラスはその、どこか不思議な響きのあるような言葉を、反すうする。