zinma Ⅲ
とくに厳しい検問があるわけではない門を抜け、2人の旅人がミルドナに入ってきた。
もともとたくさんの旅人や遊牧民の行き来が多いミルドナでは、今日も様々な格好をした人々が門を行き来しているため、2人の旅人も特に目立つわけではない。
しかし、賑やかな街の中で人目をしのぐように静かに進む2人は、ある意味異質な雰囲気を放っていた。
2人は旅人用の丈夫なコードのフードを目深に被っており、顔は見えない。
その2人は、真っすぐに宿へと入って行った。
行商のものがたくさんやってくるミルドナには、宿屋もたくさんある。
ミルディー亭は、その中でも比較的小さめの、家族で経営する宿屋だ。
食堂も兼ね備えたミルディー亭は、昼時のいまの時間小さな食堂にたくさんの人が押しかけ、笑い声や食器の当たる音が響く賑やかさを見せていた。
少し錆び付いたドアが開き、ドアに付けてある鈴が楽しげに響き、食堂で慌ただしく動いていたミルディー亭の一家の娘、ナムが元気よく声を上げる。
「いらっしゃい!
お食事ですか?宿泊ですか?」
慣れたようにそう声を上げて、持っていた汚れものの皿をキッチンに起き、エプロンで手を拭きながらドアへと駆け寄る。
顔を上げドアに立つ客を見て、ナムは一度動きを止める。
客は2人だった。
2人とも足元まである長いコートをはおり、フードで顔が隠れている。
宿屋の娘のナムは旅人や商人は今までに何人も見てきた。
だがなぜかこの2人は雰囲気が少し違う……。
「部屋は、空いていますか?」
透き通るような少し高めの男の子の声に、ナムははっとする。
そして慌てて笑顔を作ると、
「ええ、空いてますよ。
2人分のお部屋をひとつでよろしいですか?」
それにさっき声を出したらしいほうの旅人がうなずく。
そしてフードを、とる。
フードを取ったあとに現れた顔は、予想外に、若い少年だった。