zinma Ⅲ
真っ暗な森の中を、レイシアは昼間と変わらぬ足取りで進んでいく。
目の前を見ることすらままならない暗闇で、ひょいひょいと枝やツタや草をかわしながら進む。
シギもだんだんと目が慣れてきたもののの、まだ時々何かに身体をぶつけてしまう。
そのシギを気遣うように時々後ろを見ていたレイシアが、笑う。
それにシギが、
「すみません。」
と謝ると、
「謝ることではありませんよ。」
と言って立ち止まる。
そして右手の人差し指を立てると、その指で空間に何かを描いていく。
するとその指を辿るように、光り輝く模様が現れる。
魔法陣だ。
レイシアは魔術を使うことができる。
シギもだ。
この2人は、現在の世界で唯一魔術を使うことのできる2人だった。
レイシアが魔法陣を描き終わり、その魔法陣がきらめいたかと思うと、そのきらめきが集まり、手の平大の光の玉が現れる。
それがレイシアの手の平にふわりと浮かび、辺りを照らす。
「これで大丈夫ですね。」
とレイシアは言い、シギがそれに頭を下げると、また2人は歩き始めた。
最初はただの森だった山は、どんどん岩肌が現れる斜面になっていく。
ごつごつとした足場の悪い岩場を、レイシアとんとんと軽く跳びながらすごい速さで登っていく。
シギもレイシアまでとはいかずとも、普通の人間にはできないような速さで登る。
その岩場も越え、地面が荒れ果てた大地になった。
草はところどころにしか生えず、岩でさえ少ししか見当たらない。
しかしレイシアは、空中に広がるこの不思議な空気の基がこの先にあることを感じていた。
警戒しながら、ゆっくりとその方向に行く。
シギもそれに続く。
すると、この荒涼な大地にはそぐわない、きれいに朱色に塗られた小さな祠が、視界に現れた。
レイシアの身長と同じか、それよりも少し大きい程度の祠だ。