zinma Ⅲ
そこでレイシアは突然立ち上がる。
どこか大袈裟な、芝居がかった口調と仕種でレイシアは言う。
「『選ばれしヒト』はその名のとおり、神によって選ばれた神の分身。
神の力の一部を与えられたただ一人の人間だと言われています。
もちろん、その力を得る代償として私はたくさんのものを失っている。
人間としての人生、人間の世界、はたまた感情、さらには……命。」
「命?
命を失うというのはいったい……」
ダグラスがそう聞き返すが、レイシアは微笑むだけだった。
「昨晩私は『選ばれしヒト』としての禁忌に触れたんです。
私の憎しみの感情が爆発し、私の中に溜め込んだ『呪い』がそれに反応して暴走した。
昨晩の出来事によって私はまたたくさんのものを失った。」
そしてレイシアは彼の右腕の袖をめくる。
色白な、細い腕。
しかしそこには、昨晩浮かんでいたような真っ黒の血管が、一筋だけ残っていた。
「それは………」
レイシアはまたその袖を元に戻しながら、言う。
「これは私の中に巣くう『呪い』です。
私が『選ばれしヒト』である限り、これは私の中で暴れ続ける。
でももう昨晩のようなことは起きない。
私の憎しみの心はどうやら、これらに喰われてしまったようですしね。」
レイシアはまたダグラスを真っすぐに見つめて、微笑む。
「これ以上の詳しい話は、彼に聞いたほうが早いでしょう。
とにかく今は、彼が目覚めるのを待つのみです。」
それにダグラスは思わず目を見開く。
そのダグラスを知ってか知らずか、レイシアは畳み掛ける。
「彼が目覚めたらすぐにここを発ちますよ。
必要な物は私が調達しに行きますから、早めに言うようにしてください。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。
それはこのあと私は君たちに……」
「他に行くあてがあるんですか?」
有無を言わさぬレイシアの物言いに、ダグラスは思わず黙り込む。
そのダグラスを見て満足げにうなずき、レイシアはダグラスへ近寄る。