zinma Ⅲ
レイシアはダグラスに向かって、すっと右手を差し出す。
「改めまして、私の名前はレイシア・リール。
神に力を与えられた『選ばれしヒト』です。
彼の名前はシギ・サン。
カリア・サンとファギヌ・サンの一人息子で、ルミナ族の血をひく最後の生き残り。
こちら側の世界へようこそ。」
レイシアはそう言って、美しく微笑む。
そこからは昨晩のような禍禍しさや、鬼気迫るものは感じられない。
真っ白な貴族風のシャツと黒のパンツはよく似合っていて、人間としての美しさをそこにすべて集めたかのようだった。
その中身は、人間ではないというのに。
ただダグラスには、美しく、清らかで、醜い心をしらない、天使の姿に見えた。
その天使が、いまこちらへ手を差し出しているのだ。
この手を取れば、ダグラスはもう人間の世界から完璧に弾き出されるだろう。
いや、もうすでに昨日まで自分が生きていた人間の世界には戻れないのだ。
あとはもう、この現実を受け入れるか、否か。
目の前に差し出されるしなやかな手を取れば、ただの人間には絶望しか待っていないような世界へ、行くことになる。
まさに、悪魔との契約だった。
ダグラスはレイシアの手を、真っすぐに取る。
「……こちらこそ、よろしく。
ダグラス・ディガロ。
軍を捨てた大馬鹿者だ。」
誇り高い微笑みを浮かべるダグラスに、レイシアはまたにっこりと微笑んだのだった。