zinma Ⅲ



「レイシアなら元気だ。
今だってシャムルに買い物に行っている。
あの日の翌日にはもう起きて街に出ていたくらいだ。

だいたい、私と君をこの酒場に連れてきたのも彼だよ。」



それにシギが安心したような、それでいてやはりまだ落ち着かないような顔をする。

ダグラスはそれにまた優しく微笑んで、続ける。



「私もあの晩、君とある宿へ向かったのは覚えてるんだ。

だがそこでおそらく私も君も意識を失ったらしい。

レイシアはあのあと目を覚まして私たち2人と君たちの荷物を担いで、ここまで来たんだ。

あの細い身体のどこにそんな力があるんだか。」



おどけるようにそう言って笑うダグラスに、シギも少し安堵する。

と、そこでシギは初めて、魔力を感じてきょろきょろと周りを見る。

すると足元にベッドを覆うくらいの大きさの魔法陣が床に浮かび上がっていて。


「これは………」


そうつぶやいてからシギは『共鳴』をして、周りを見る。

『共鳴』とは魔術を使うときの基本中の基本で、これによって世界中の自然の中に溢れる魔力を目で見ることができる力だ。


するとその『共鳴』した世界では、妙なことが起こっていた。


金色にきらきらと輝く少女が、シギのベッドに頬杖をついてこちらを見ていた。

シギと目が合うと少女はにっこりと微笑み、しかし視線をすぐシギの背後へと向ける。



その視線を追ってシギが振り向くと、窓際にいつの間にかレイシアが立っていた。





「やっと目が覚めたんですね。」





静かにそう言って、レイシアは微笑む。






「師匠!
もう身体のほうは………」

「大丈夫ですよ。
あれから3日も経っているんですから。」


冗談めかして言うレイシアにシギが顔をしかめると、レイシアは小さく笑う。


「はは、冗談ですよ。
とにかく、3日で済んでよかった。」


そう言ってレイシアはシギのほうに向かってひょいと指を振るう。

すると床に浮かんでいた魔法陣が消え、部屋を包んでいた魔力が消える。





< 203 / 364 >

この作品をシェア

pagetop