zinma Ⅲ
「師匠、今の魔術は………」
そうシギが聞くと、レイシアはダグラスの座っているベッドに近づいて同じように腰掛けながら言う。
「あなたがあの晩に使った魔術の応用ですよ。
あなたはあまりに多くの魔力を消費したものですから、魔力の飢餓状態でずっと眠っていたんです。
それを精霊を呼び出してあなたに魔力を送りこむことで、処置をしていた。
さらに彼女には、あなたが起きたときに私に知らせる役目も頼んでいましたが……」
シギは、レイシアが簡単に魔術を応用してしまう力に素直に感心した。
あの魔術は普通の魔術ではないのだ。
ルミナ族に伝わる、特別な魔術。
『選ばれしヒト』のためだけに作られた魔術だった。
両親の記憶に干渉し、それを身体になじませたことによって手に入れた『選ばれしヒト』に関する知識の中に、シギは見つけたのだ。
万が一、『選ばれしヒト』が『呪い』に喰われて暴走しかけたときに、使う魔術。
『呪い』とは相反する神の力である魔力を、精霊を召喚してレイシアに流し込むことにより、『呪い』の力を弱める魔術。
「………って、なぜあなたがいるんです?」
シギはそこで初めて気づいたように、ダグラスを指差す。
それまでレイシアとシギの会話を感心するように眺めていたダグラスは、それに一瞬困ったような顔をしてからレイシアを見る。
レイシアはというと、そのダグラスの視線を受け止めて、ああ、とつぶやいてから口を開き、一言。
「ダグラスさんも連れていきます。」
「…………は?」
シギは思わず目を見開いて呆然とする。
しかしそのシギを無視して2人は、
「ダグラスさん?さん付けなんかしなくていい。」
「いや、でも私よりもずっと年上ですからねー。」
「俺だってレイシアのことはレイシアと呼んでるんだ。
何よりもダグラスさんっていうのは……こう、落ち着かない。」
「はは、じゃあダグラスと呼びます。」
「ああ、そうしてくれ。」
などと盛り上がる。