zinma Ⅲ
しばらく呆然としてその2人を見つめていたシギが、やっと意識を取り戻す。
「え、いや、ちょっと待ってください。」
それに雑談を繰り返していた2人がシギを見る。
「いや、確かにダグラスさんはもうこっちの世界を知ってしまったわけですけど……
でもこの人はただの人間ですよ?
私や師匠と違ってなんの力も持っていないのに……
こちら側で生きていけるんですか?」
「はい。」
それにレイシアはにっこりと微笑んで即答する。
ダグラスでさえもそれに驚いたようで、レイシアを驚きの目で見つめる。
シギも怪訝な顔をしてレイシアを見るが、その2人の視線を受けてレイシアは立ち上がる。
「私たちの敵は『呪い』なわけですけど……
『呪い』というのはそもそも人間の心が産んだも同じ。
この世で『呪い』を有している存在も、もとは人間です。
ならば私たちの側に人間がいても問題はないでしょう?」
腰に手を当ててレイシアはそう言い、そして横目でダグラスを見下ろし微笑む。
「……まあ、『呪い』を得てしまった人間たちの残酷な運命を見てもなお、ダグラスが精神を保っていられるかは別問題ですが。」
それにダグラスが目を細め厳しい表情になる。
しかしそこでレイシアはいつもの穏やかな表情に戻り、軽くひとつ、手を叩く。
「とにかく、やってみなければわからないということで……
私たちは早く王都を発たなければ。」
いつまでもこの宿を借りるわけにはいきませんしねー、とレイシアがおどけたところで、部屋のドアがノックされる。
「レイー。
飯の皿をよこせー。
酒場で皿が足りなくなりやがった。」
この宿の主人の声がドアの向こうで響く。
レイシアはドアを開けに行って、
「あ、まだ食べてません。」
と言い、主人に何やら文句を言われたり笑ったりしている。
そのレイシアの背中をながめてから、ダグラスがシギに向き直る。