zinma Ⅲ
「……てことだから、よろしく。
シギくん、だね?」
少し困ったような、遠慮したような顔でダグラスが言う。
シギはため息混じりに笑いながら、
「まったく、師匠の気まぐれには着いていけません。
それより、私のことも呼び捨てでいいですよ。」
それにダグラスが迷うような顔をしてから、照れたように微笑む。
「じゃあ、そうしよう。
俺のことも呼び捨てでかまわないから。」
シギがそれに薄く微笑んでうなずく。
それからシギが、まだ酒場の主人と仲よさ気に話すレイシアを見つめていると、
「彼のことはある程度聞いた。」
ダグラスが静かに言う。
シギがダグラスへ視線を戻すと、ダグラスは静かな表情でうつむく。
「君が寝ていた3日間、レイシアとはたくさんのことを話した。
彼はあまり自分のことを話したがらないから、『選ばれしヒト』のことや、『呪い』ことや、私の話ばっかりだったんだが……。」
シギはまたレイシアのほうへと視線を移す。
穏やかな、年齢にふさわしいまだ無邪気な顔で笑うレイシア。
「それでもレイシアについてはわからないことが多い。
彼は君にならもうすべて知っていると言っていたんだが……。
君は『選ばれしヒト』についてはどこまで知っているんだ?」
シギはレイシアの方へ顔を向けたまま、目をふせる。
両親から受け継いだ『選ばれしヒト』の知識は、もう完璧にシギに馴染んでいた。
もう自分の知識として、いつでも取り出すことができる。
ルミナ族が古くから蓄積していた『選ばれしヒト』に関する知識。
そのすべてがいまシギの頭の中にあるのだ。
「どこまで……ですか。
どこまでなんでしょうね。
私はどこまで、師匠のことを知っているのか………。」
それにダグラスは悲しげな目になる。
ダグラスは、おそらくもうほとんどのことを悟っているのだろう。
『選ばれしヒト』のことを。
その存在の意味を。
そして、レイシアの行く先を。