zinma Ⅲ




「……てことだから、よろしく。
シギくん、だね?」


少し困ったような、遠慮したような顔でダグラスが言う。

シギはため息混じりに笑いながら、


「まったく、師匠の気まぐれには着いていけません。

それより、私のことも呼び捨てでいいですよ。」


それにダグラスが迷うような顔をしてから、照れたように微笑む。


「じゃあ、そうしよう。
俺のことも呼び捨てでかまわないから。」


シギがそれに薄く微笑んでうなずく。



それからシギが、まだ酒場の主人と仲よさ気に話すレイシアを見つめていると、



「彼のことはある程度聞いた。」



ダグラスが静かに言う。




シギがダグラスへ視線を戻すと、ダグラスは静かな表情でうつむく。


「君が寝ていた3日間、レイシアとはたくさんのことを話した。

彼はあまり自分のことを話したがらないから、『選ばれしヒト』のことや、『呪い』ことや、私の話ばっかりだったんだが……。」



シギはまたレイシアのほうへと視線を移す。


穏やかな、年齢にふさわしいまだ無邪気な顔で笑うレイシア。



「それでもレイシアについてはわからないことが多い。

彼は君にならもうすべて知っていると言っていたんだが……。

君は『選ばれしヒト』についてはどこまで知っているんだ?」




シギはレイシアの方へ顔を向けたまま、目をふせる。


両親から受け継いだ『選ばれしヒト』の知識は、もう完璧にシギに馴染んでいた。

もう自分の知識として、いつでも取り出すことができる。


ルミナ族が古くから蓄積していた『選ばれしヒト』に関する知識。

そのすべてがいまシギの頭の中にあるのだ。





「どこまで……ですか。
どこまでなんでしょうね。

私はどこまで、師匠のことを知っているのか………。」



それにダグラスは悲しげな目になる。


ダグラスは、おそらくもうほとんどのことを悟っているのだろう。

『選ばれしヒト』のことを。
その存在の意味を。

そして、レイシアの行く先を。





< 206 / 364 >

この作品をシェア

pagetop