zinma Ⅲ
「『選ばれしヒト』の本当の意味なんて、神にしかわからない。
いや、神にもわからないのかもしれません。」
シギはゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「ただはっきりしているのは、師匠は『選ばれしヒト』ではあるけど、今までの『選ばれしヒト』とは違うということです。
それに師匠自身が気づいているのか、気づいていないのかはわかりませんが………。」
ダグラスが厳しい顔つきで、目を細める。
「違う?
特別だということか?」
シギはしばらく黙り込み、またレイシアを見る。
「……何が違うのか……。
今までの『選ばれしヒト』は、特別な力を持ってはいたものの、それでも人間だった。
人間のように笑い、人間のように泣いた。
でも師匠は…………」
そこで言葉を止めるが、その先がダグラスにもわかったらしく、険しい顔でレイシアを見つめる。
「本当に師匠は神の分身なのかもしれない。
ルミナ族の預言にも、記されているんですよ。
師匠の存在が。」
ダグラスが弾かれたようにシギを見る。
「預言………?
ならば彼がこれからどうなるかも……」
シギが静かにうなずく。
そのシギの表情から、ダグラスは何かを読み取り、苦しげに顔をしかめる。
「…………そうか……。」
そのまま、2人は黙り込む。
離れた場所では、レイシアと酒場の主人との会話がつづいていて。
「どうか…………
どうか、師匠が、感情を取り戻しませんように………。」
シギは小さく、そうつぶやいたのだった。