zinma Ⅲ
ベルーシカ
新しい旅へ
まだ朝日が昇る前。
わずかに明るくなった町並みが青白く輝き、濃い霧が地面を這うようにして街中を包み込んでいた。
「…………行きますよ。」
囁くようにそう言って、ひとつの影が路地裏から飛び出す。
さらに後に続く影が、2つ。
コートを着ているらしい先頭の影から、手が伸びる。
その手にはロープが握られていた。
走り続けながら、その手がわずかに動く。
風を切る音を発しながら、その手がくるくるとロープを回す。
ひゅっ。
勢いをつけて投げられたロープは、先に取り付けられた金具が正確に異常な高さの城壁へ引っかかる。
走り続けたままの影が、地面を強く蹴る。
まるで飛ぶようにして、一足飛びだけで高い城壁の真ん中あたりへと影は飛びついた。
またひとつ飛び、影は城壁の上へ。
登りきった影が、ロープを背後へと投げる。
後ろを着いていた2つの影のうちひとつが、そのロープを掴み、同様に飛びながら壁を登る。
しかしそこで、
「………なんだ?」
少し遠くから、わずかに人の声が聞こえてくる。
まだ壁に登っていない3つ目の影が、弾かれたように振り向く。
どんどん近づく、声。
先頭を走っていた影が、またロープを投げる。
3つ目の影がそれを掴んだ途端、彼はロープを強く弾く。
さらに同時に、
『リィラ』
そう小さくつぶやくと、ロープに引かれる3つ目の影を押し上げるようにして、強い風が吹く。
風とロープを引く力で、ふわりと3つ目の影も壁の上へ舞い降りる。
「いま人影が見えなかったか?」
「いや、そんなことは………」
見張りの兵士が城壁に辿り着いたころには、そこには静かな霧だけが残されていた。