zinma Ⅲ
シギもそれを視界に捕らえるが、その途端、
「…やられましたー。」
と、レイシアがため息混じりに言う。天を仰ぎ、腰に手を当て疲れた身体を伸ばすようにする。
それはレイシアには珍しく、ひどく落胆した様子だった。
「どうしたんです?」
とシギが聞くが、レイシアはそれには答えず、うつむき考え込む。
目を閉じ、少しだけ眉を寄せた、焦るような顔。
それにシギは怪訝な顔をして、祠に目を向ける。
するとその祠の扉は、開け放たれていた。
その祠の中身を見て、シギは一瞬言葉をなくす。
中には、ミイラが納められていた。
あぐらをかくような体勢で祠の中に座るミイラ。
祠にぴったりとおさまり、他には何も入っていない。
「……急いで、山を降ります。」
そのレイシアのいつになく真剣な低い声にシギが振り向くと、まだ考え込むようにしているレイシア。
だがシギが聞き返すよりも先に、レイシアが踵を返す。
それにシギも、慌ててレイシアを追いかける。
始めは早足で進んでいたレイシアは、シギが追いかけてこれているのを横目で確認すると、一気にスピードを上げる。
風のような速さで、駆ける。
シギも全力で走り、レイシアを追う。
暗闇を走ることに集中しているシギとは違い、レイシアは息をまったく乱すことなく走り続け、シギに向かって話す。
「時間がありません。手短に説明しますよ。
あのミイラを見たでしょう?
あれはおそらく、ミルドナで聞いたお伽話の中に出てくる仙人です。
仙人は力を祠に封じたのではなく、自らがミイラとなり祠に入ったんです。
そうして仙人は、自分の身体が滅びるのを防ぎ、力を永遠に手に入れたつもりだったのでしょうが、あたなも知っているとおり『呪い』は人から人へ渡り歩きます。
そんなことで仙人の身体に留まるような簡単なものではない。」