zinma Ⅲ
『呪い』とは神の力とは対象の存在。
神の分身である『選ばれしヒト』は、その相反する力、『呪い』を身体に溜め込むために、上手く身体の中でバランスを取っているのだ、
そのバランスを取る力こそが、『選ばれしヒト』の特別な能力とも言える。
しかし、その『呪い』を使うという禁忌を犯した場合、バランスが崩れ、『呪い』の力が強まってしまい、その結果『選ばれしヒト』が傷ついてしまうのだ。
『選ばれしヒト』となった時点で、人間としての命を差し出し、『選ばれしヒト』であるからこそ生きていられるレイシアにとっては、『選ばれしヒト』が傷つくことは、寿命が削られるも同然なのだ。
しばらく歩くと、突然視界が開けた。
突然明るくなった景色に、ダグラスが顔をしかめる。
しばらくして慣れた目に映ったのは、美しい湖だった。
まっすぐに射す光に、波立つことのない湖がきらきらと光る。
異常なほどの透明度の湖は、底に沈む大木や、泳ぐ魚たちのすべてがガラス越しのように見えた。
ダグラスがその光景に見とれていると、
「時間がありません。
すぐいきますよ。」
レイシアがやっと口を開く。
それにダグラスがレイシアのほうを見ると、レイシアがコートを脱ぎ、荷物を湖のほとりに置いていた。
シギはというと、そのほとりに座禅を組み、静かに瞑想しはじめる。
ダグラスはシギから一歩下がったところに腰を下ろす。
レイシアはブーツを脱ぎ、ズボンを膝までくるりとたくし上げる。
「………。」
レイシアは一度大きく深呼吸をし、湖へと足を踏み入れる。
「……!」
ダグラスはそこで思わず目を見開く。
レイシアはゆっくりと、水面を歩いていた。
一歩ずつ。
水面に静かに波紋を作りながら、一歩。