zinma Ⅲ






甲高い耳鳴りに、ダグラスは思わず片耳を押さえた。




一歩。



レイシアが一歩踏み出すたびに、耳鳴りは大きくなっていく。





一歩。


レイシアの周りに、光の玉が現れはじめた。

蛍のような、青白く小さな美しい光。


それがレイシアから現れ、ふわふわと飛んでは消え、飛んでは消え。




一歩。



『選ばれしヒト』が、現れはじめた。


レイシアの肌が青白く光りはじめる。

足元から順に、光り輝く。






その幻想的なレイシアの背中を、ダグラスは呆然と見つめる。

強くなっていく耳鳴りも気にならなくなるほど、あまりにもその姿が美しすぎた。


さらに耳鳴りも、耳がおかしくなりそうなほどの大きさにも関わらず、嫌な気分ではなかった。


『ーーーーー。』


それはあの夜、シギが聖霊を呼び出したときに聞こえてきた、女性の歌声のようなものにとても似ていた。





「………ぐっ……………。」


その耳鳴りのすき間から、かすかにうめき声が聞こえて、ダグラスは視線をシギへと向ける。


すると瞑想をしていたシギの背中がゆらりと傾く。



ダグラスが慌ててその背中を後ろから支ると、シギの身体は汗でひしょりと濡れていた。


「シギ……大丈夫、か…?」


耳鳴りに顔をしかめながらダグラスが聞くと、シギは弱々しくうなずくだけで答え、ダグラスに身体を預けたまま震える指先を空中へ向ける。



その指で何かの魔法陣を描きはじめるが、ダグラスにはそれがわからずレイシアへと視線を戻した。




レイシアはもう湖の真ん中へと辿り着いていた。



身体はもう全身が青白く輝き、美しい発光体へと姿を変えていた。


プラチナ色の髪は輝きを増し、自ら光りながら空中にゆらゆらと漂っている。





レイシアは空を仰ぐように上を向く。



ダグラスはレイシアから目を離せなかった。











『万感』






世界中に鐘のごとく鳴り響くような、不思議な声があたりをつつむ。







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