zinma Ⅲ
レイシアはブーツを履き終えると、すっと立ち上がりダグラスと向き合うように立つ。
「私は『選ばれしヒト』である時点で寿命が短い。
その短い寿命の中で『選ばれしヒト』の義務を果たすためにも、命を差し出してでも円滑にこの旅を進める必要があるんです。
私はいたずらに自分の命を差し出したりはしませんよ。
今回の『呪い』の発動も、必要なことだったんです。」
そう言ってレイシアはどこか空虚な瞳で、自分の手の平を見た。
ダグラスはそれにしばらく黙り込み、声音を明るいものにして聞く。
「で、今の『呪い』にはどんな力があったんだ?」
それにレイシアが顔を上げ、にっこりと微笑む。
レイシアが口を開こうとしたところで、
「『万感』ですよ。」
しかしその質問に答えたのはシギだった。
ダグラスから身体を離し、ゆっくりと起き上がる。
まだだるそうに立ち上がり、湖へ向かいながら言った。
「『万感』……。
異常に広い範囲を感知することのできる『呪い』です。
師匠は『万感』を使って、どのあたりに『呪い』の契約者がいるのか探ったんですよ。」
そこでシギが湖にたどり着き、しゃがみ込んで湖の水で顔を洗いはじめる。
「そういうことです。」
レイシアが肩をすくめて小さく笑い、付け加えた。
ダグラスが納得したようにうなずき、さらに聞く。
「なるほどな。
で、収穫はあったのか?」
横目でレイシアを見ながらそう聞くと、レイシアはそれにまた微笑む。
「ええ、もちろん。」
それに濡れた顔を手の甲でぬぐいながら、シギも振り向く。
「では進む方向も決まったんですね?」
ダグラスもそれに便乗するようにして、改めてレイシアを見つめた。
レイシアは2人の視線を受け止め、ある方向を指指して答えた。
「はじめは、西を目指しましょう。」
それにシギは納得したようにうなずき、湖にやってきた小鳥を何とは無しに見つめる。