zinma Ⅲ



レイシアはブーツを履き終えると、すっと立ち上がりダグラスと向き合うように立つ。



「私は『選ばれしヒト』である時点で寿命が短い。

その短い寿命の中で『選ばれしヒト』の義務を果たすためにも、命を差し出してでも円滑にこの旅を進める必要があるんです。

私はいたずらに自分の命を差し出したりはしませんよ。

今回の『呪い』の発動も、必要なことだったんです。」



そう言ってレイシアはどこか空虚な瞳で、自分の手の平を見た。




ダグラスはそれにしばらく黙り込み、声音を明るいものにして聞く。



「で、今の『呪い』にはどんな力があったんだ?」



それにレイシアが顔を上げ、にっこりと微笑む。

レイシアが口を開こうとしたところで、



「『万感』ですよ。」

しかしその質問に答えたのはシギだった。



ダグラスから身体を離し、ゆっくりと起き上がる。


まだだるそうに立ち上がり、湖へ向かいながら言った。


「『万感』……。

異常に広い範囲を感知することのできる『呪い』です。

師匠は『万感』を使って、どのあたりに『呪い』の契約者がいるのか探ったんですよ。」



そこでシギが湖にたどり着き、しゃがみ込んで湖の水で顔を洗いはじめる。




「そういうことです。」


レイシアが肩をすくめて小さく笑い、付け加えた。



ダグラスが納得したようにうなずき、さらに聞く。


「なるほどな。
で、収穫はあったのか?」



横目でレイシアを見ながらそう聞くと、レイシアはそれにまた微笑む。


「ええ、もちろん。」




それに濡れた顔を手の甲でぬぐいながら、シギも振り向く。


「では進む方向も決まったんですね?」



ダグラスもそれに便乗するようにして、改めてレイシアを見つめた。




レイシアは2人の視線を受け止め、ある方向を指指して答えた。



「はじめは、西を目指しましょう。」




それにシギは納得したようにうなずき、湖にやってきた小鳥を何とは無しに見つめる。



< 215 / 364 >

この作品をシェア

pagetop