zinma Ⅲ



「『西の丘』か………。
西にたくさんの『呪い』があったのか?」


ダグラスがそう聞くと、レイシアは肩をすくめる。



「それもありますが……。
まあ、西へ向かいながら話しましょう。」



レイシアはまだ湖のほとりに立っているシギのほうを振り向いて、

「もう回復しました?」


と聞く。



シギもそれにレイシアのほうを向き、うなずいたのだが。




レイシアはにっこりと微笑むと、シギを指さしてつぶやく。



『ディーバ』



それに答えるようにしてシギの立っている地面が盛り上がり、

「わっ………」

シギがバランスを崩した。



それと同時にレイシアはシギの背後に向けて片手を掲げ、


『セルージオ』

つぶやく。



するとシギの背後の湖の水がぽこぽこと沸き上がり、シギを覆うほどの高さまで盛り上がる。

まるでそれは大きな手のように見えた。


それを確認すると、レイシアは掲げた手を、きゅっと軽く握る。



その手と同じ動きを、大きな水の手がした。

シギは驚きの声を上げる前にその手に飲み込まれ、湖へ引きずり落とされてしまった。






大きな水しぶきを上げ、シギが湖へ消える。



レイシアはまるで子供を叱りつけるかのような気の抜ける姿勢で、腕を組んで湖を見つめていて。




「…………レイシア?」



ダグラスが思わずそう聞くのと同時、

「…ぷはっ……!」

シギが大きく息を吸いながら湖から顔を出す。




湖の中心あたりの少し深めのところにいるシギは、ぷかぷかと立ち泳ぎをしながら片手で張り付く前髪を書き上げて叫ぶ。


「し、師匠!
何するんですか!」



しかしレイシアはそれをにこにこと微笑んで眺めると、また片手を振るう。

するとまた水が盛り上がり、シギをさらっていく。


「うわっ………」


シギがまた水の中に消えて行くのを見て、レイシアは満足げにうなずく。



「お、おい、レイシア。
何をやってるんだ?」


ダグラスが思わず聞くと、またシギが慌てて顔を出した。




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