zinma Ⅲ
「とにかく今は、その中で休んでください。
あなたが回復し次第、ベルーシカに向かいますよ。」
レイシアはそう言って、手を軽く振るう。
それに湖を泳いでいた女神がレイシアを一度見つめ、妖艶に微笑んで水に消えていった。
それにシギが遠慮がちに声をかける。
「師匠、あの………」
「彼女にはあなたの世話をするように言いました。
溺れることもありませんから、楽にしてください。」
シギの言葉をレイシアが遮る。
シギはそれにもう声を上げることなく、大人しく湖の上に浮き、目を閉じる。
それを確認してレイシアはダグラスの隣に座り、仰向けに寝転がると、かばんから取り出した本を読み始める。
「ベルーシカか…………
一番王都寄りの西の街だな。」
ダグラスがそうつぶやくと、レイシアは本を読んだまま答える。
「はい。
ベルーシカには問題はなさそうですから、大丈夫だとは思います。」
それにダグラスは、本から顔を出さないレイシアに振り向いて聞いた。
「それは『呪い』がないということか?」
そこでレイシアははたと思いたったような顔をして、片手でダグラスを制すると、本を置いて寝転がったまま目を閉じる。
「ん。」
小さくそうつぶやくと、レイシアの身体の下の地面に、光り輝く魔法陣が現れる。
そこから放たれる金色の光が、レイシアを包むように浮きはじめる。
レイシアはそれを確認すると、目を閉じたまま、ダグラスに答える。
「『呪い』はないはずです。
ベルーシカは他の西の街とちがって、まだ軍の虐殺が行われていませんから、契約者のような暗い心を持つ人間が現れないんでしょうね。」
その言葉にダグラスは顔をわずかに歪め、地面の草を握りしめる。
それを感じとったのか、そうでないのか。
レイシアは目は閉じたまま、わずかに口元に嘲笑するような微笑みを浮かべる。
「人間は、大変ですねー。」
その言葉が、ダグラスの耳にやたらに残ったのだった。