zinma Ⅲ
ベルーシカは古風だが、美しい街だった。
白い壁に、赤や茶色や黒の木組みが浮き出ている。
「本当に全部の屋根に風見鶏が付いてるんですね……。」
シギはそう言って、かぶったフードを片手で持ち上げながら屋根を見上げた。
ダグラスの言っていたとおり、ベルーシカの家にはすべてに風見鶏がついていた。
さらにどの風見鶏も個性的で、同じものがないように見える。
そのシギの考えに答えるように、ダグラスは言う。
「風見鶏はその一家の家紋みたいなものなんだ。
だから同じものはひとつもない。
美しければ美しいほど、その家の誉れになるわけだ。」
3人はそのかわいらしい、おもちゃのような街を観光しながら、ゆっくりと道を歩いた。
ベルーシカは王都に近いだけあって、とても栄えていた。
人込みも多く、しかし王都のような着飾った住人が歩くことはなく、比較的に商人や旅人の姿が多く見られた。
そういった商人たちの往来の激しい街路を一度外れてしまえば、静かで穏やかな、住人がゆっくりと歩く道になっていた。
「師匠。」
「なんですか?」
そんな静かな街路を進みながら、シギは前を歩くレイシアに声をかける。
「今回のベルーシカの滞在は何日ですか?」
それにレイシアは振り向くことなく答える。
「1日です。」
ダグラスとシギは思わずそれに少し驚いた顔をする。
「ずいぶん忙ぐんだな。」
ダグラスがそう声をかけると、レイシアは足を止めることなく答える。
「ベルーシカには宿泊のために寄るだけですからね。
情報を集められる場所もありませんし、用はないので。」
と、そこでレイシアは顔を上げる。
「ここでいいでしょう。」
そこは少し古ぼけた宿屋だった。
レイシアはまたフードを深くかぶり直し、静かに宿へ入っていった。