zinma Ⅲ
シギはその石を丁寧に優しい握りしめて、言う。
「…師匠が、王都で捨てたんですよ。
王都を出る直前に。」
指の隙間からも、わずかに光りを放つ石をシギは静かに見つめた。
『え、師匠、その石……』
『ここに捨てて行きます。』
『いや、しかし…………』
『もう意味がないじゃないですか。』
『………。』
『もう私がこの石を持ち続ける意味はありません。
この石を持っていたって、彼女に会えるわけではない。
だから捨てます。』
『師匠…………』
『ほら、行きますよ。
私にはいよいよ時間がない。』
『……はい。』
「私は結局この石が気がかりで、拾ってきてしまいました。」
シギはそう言ってダグラスに石を手渡す。
ダグラスはそれを静かに受け取り、手の上で輝くそれを見つめる。
それはまだ磨かれていない原石のようだったが、かなり擦り切れているようだった。
まるで、何度も何度も、握りしめられたように。
「私が両親の記憶の一部を受け継いだのをあなたも知ってますね?」
シギがそう言うので、ダグラスはうなずく。
それを確認してまたシギは口を開いた。
「その石を見て、思い出した。
私の中の両親の記憶を。
両親たちの記憶にいた、師匠のこと。」
ダグラスはそれにシギの瞳を真っすぐに見つめて聞く。
シギはそれを受け止めてから、悲しげに渇いた笑いをこぼす。
「師匠はいつもその石を握っていました。
事あるごとに、首にかけた石を触っていた。
母さんも父さんも、その師匠の癖を切なげに見つめていましたよ。
2人はわかっていたんです。
師匠が、人間の世界から乖離することを選びながら、しかしその石に触れることで、どこかで人間の世界へ思いを馳せていたんでしょう。
もう戻ることができないと知りながら、師匠を唯一人間の世へつなぎ止めてくれる少女を想って。」