zinma Ⅲ
それにシギはうなずく。
シギも一度、レイシアを救うために巨大な精霊を呼び出したことがあるのだが、その反動で数日間目を覚ますことができなかったのだ。
「……おそらく、本当に自然に発生した精霊だったのでしょう。
もしくは……」
「もしくは?」
ダグラスがそう聞き返すと、シギは少し目を伏せてから、口を開く。
「もしくは………
本物の神だったか。」
それにダグラスが顔をしかめたところで、店で商売に戻っていた店主が振り向く。
「ああ、そうだそうだ。
何年か前に不思議なことがあってなあ。」
その言葉にシギが弾かれたように顔を上げ、店主を見つめる。
「不思議なこと………?」
すると店主はまた2人へ近づき、言う。
「いや、な。
この西の地方は『風の丘』と呼ばれるほどだから、風が止むことはないんだ。
その日も風は吹きつづけていたというのに………
突然風見鶏が、ある方向を向いて、全部止まったんだ。」
それにダグラスもシギも目を見開く。
「風見鶏が……止まった?」
シギが呆然とそうつぶやくと、店主も顔をしかめる。
「ああ、本当に不気味だったよ。
みんながみんな、ある一点を見つめてるって感じだった。
風が止んで静かになるなんて、滅多にないことだから、なおさら、な。」
そう言って身震いするような仕種をする店主に、シギは切れ長の目を細めて聞く。
「………それから?」
店主は思い出すように空中を見上げ、口を開く。
「そうだな……
確かあれは夕暮れだったんだが…
しばらく、って言ってもたぶん数分だったと思うが、そのままだから、町中大騒ぎになりかけてなあ。
みんながざわつき始めたころに、風見鶏の指す方向から突然、すごい風が帰ってきたんだ。
まるで引き潮のあとに、津波がやってくるようでなあ……
いくつもの屋台が台なしになったよ。」
そこで客が呼ぶ声が聞こえ、また店主は屋台へと戻って行った。