zinma Ⅲ
ダグラスはしばらくその店主の背中を見届け、シギへ視線を戻す。
シギは考えこむようにうつむいて瞳を閉じていた。
しばらくそのままでいると、シギは食べ終わった魚の串を木箱の上に置く。
瞳を開けて、目を細める。
「今の話は少し妙だ。
これはもしかすると……」
そこでシギは片手を空中にかざし、しばらく黙る。
「………ここの風にはやはり、わずかに他よりは強い魔力がこめられているようです。」
それにダグラスがシギに怪訝な顔を向ける。
「それがさっきの話に関係があるのか?」
シギはダグラスの方へ振り向く。
紺色の後れ毛がさらりと肩にこぼれた。
「もしもあのルーラの神の伝説が実際に起きた出来事だとしたら、この地方の風には本当に神の力が宿っているんでしょう。
普通、自然には魔力が宿っているものですが、ここの風の魔力は他よりも強力でより純度が高い気がします。
ここの風がある日何かに反応して、止まった。
さらにそのあとは突風となって押し寄せてきた。
魔力のこめられた風が反応するということは、もちろん……」
「おなじく魔力に影響された、か………。」
シギの言葉を継いで、右手であごをなでながら考えこむダグラスにシギもうなずく。
「はい。
もしくは、『呪い』に反応した可能性もあります。」
それにさらにダグラスは顔を険しくさせて、うめく。
「くそ。なるほどな。
『呪い』だとしたら、風が逃げるように戻ってきたのも説明がつく。
それも神の力が宿っていた風が逃げ出すほどなら……」
「かなり力のある『呪い』の可能性があります。」
次はシギが言葉を継ぎ、ダグラスは顔を上げてシギと顔を見合わせる。
「……レイシアを探すか。」
「はい。」
2人は立ち上がり、屋台で商売をする主人に声をかける。
「魚、おいしかったです。」
主人はぱっと振り向き、人の良い笑顔を向ける。
「ああ!またよろしくたのむよ!」
ダグラスはそれにうなずいてから、言う。
「ひとつだけ、聞いてもいいか?」
「ああ、なんだい?」
「風が止まったとき、風見鶏はどの方向を向いていた?」
「そうだな、たしか………
西だ。」