zinma Ⅲ
『ふふ、まああまりここで彼を怒らせるとカリアの制裁をもらいそうなので、やめましょう。』
「んなっ?!それは困る……。」
レイシアの言葉に一気に顔を青ざめるダグラスに、自分の母親の性格を疑いながらシギは顔をしかめた。
『それで?なんの用ですか?』
シギはそれに声を真剣なものに落とす。
「師匠。ルーラの神の伝説を知っています?」
『ああ、ルーラの神。
この西の地方の風の神の伝説でしょう?
黄金の鶏を授けたとかいう。
それがどうしたんです?』
「なんだ、知っていたのか。」
ダグラスが思わずそうつぶやくと、レイシアの声が答える。
『ええ。
あれはかなり古くからの伝説ですから。
古文書にも残っているほどです。
古語で書かれた本来の伝説では、ルーラの神ではなく、リィラの神、と呼ばれています。』
「『リィラ』?それは………」
シギがそうこぼす。
『はい。私の女神を呼び出す呪文はこのリィラの神から取っています。
リィラの神はおそらく本当に風を司る神。
その名前が一番風の魔力を引き付けやすいので……。』
それからレイシアの声は気づいたように、つづける。
『ああ、話がずれましたね。
なぜそんな古い伝説の話を?』
シギがそれに口を開く。
「数年前にその伝説に関係のありそうな奇怪が起きたらしいんです。」
そう言ってシギは魚屋の主人から聞いた話をしたのだった。
『…………なるほど。
それは………困りました………。』
長いため息とともに聞こえてきたレイシアの声に、シギは宙を見上げて聞く。
「困る?
ではやはりかなり強力な『呪い』の可能性があるんですか?」
ダグラスは姿の見えないレイシアの声を、ベッドに座ってうつむいたまま聞いている。
『強力なんてもんじゃないですよ。
まさかこんなに早く出くわすことになるとは………。』
またレイシアはため息をはく。
その声の調子に、シギとダグラスは思わず顔を見合わせる。