zinma Ⅲ
『あなた、『黒龍』について何か知っていますか?』
レイシアの声が突然そう言う。
それにダグラスとシギは一度視線を交わし、
「………『黒龍』、ですか?
わずかに父さんたちの記憶には残ってますが……
『呪い』の中でも、かなり上位種の『呪い』だとか。
伝説では、あの神でさえ恐れるほどの存在………」
とそこまで言って、シギははっと目を見開く。
それが見えていたかのようにレイシアの声が部屋に響く。
『そうです。
神の力が宿った風。
ある日止まった風。
そして………
逃げるようにして戻ってきた風。
神の力を宿したものが恐れた存在が、西に現れたんです。
考えられるのはただひとつ。』
「『黒龍』が、西にいます。」
突然近まったレイシアの声に、シギとダグラスが弾かれたように部屋のドアの方へ目を向ける。
するとそこにはいつの間にかレイシアが立っていて。
いつものにこにこと微笑んだ顔を、眉を少しだけ下げた困った微笑みに変えている。
軽く腕を組んで、閉まったドアに背中を預けるその姿はまるで子供を叱るように覇気がないのだが。
「ほんとに……困ったことになりましたね。」
レイシアその顔でまたため息をつき、シギとダグラスは困惑した表情でまた顔を見合わせたのだった。
「『黒龍』。
それは『呪い』の中でも特別な力を持った、『呪い』側の『選ばれしヒト』だと言われています。」
ベッドに腰掛けたレイシアは、移動させた椅子の上に古い少し大きめの紙を広げた。
椅子を挟んで向かいのベッドに並んで座るダグラスとシギは、身を乗り出してその紙を見る。
ポケットに入る大きさに折り畳まれていたその黄ばんだ紙には、壁画のような古い絵が描かれていた。
「……龍、ですね………。」
それは真っ黒の龍の絵だった。
恐ろしく、大きな真っ黒の龍。