zinma Ⅲ
さらにレイシアはもう一枚、同じような古い紙を置く。
その紙にはまた古い絵が描かれていたのだが、そちらは黒い鎧を身に纏った騎士のように見えた。
ダグラスがそれを手にとり、シギと眺めていると、レイシアが口を開く。
「その昔、もう伝説になっているほどの太古の時代。
この地にまだ神の力が強く残っていたころ。
黒龍と呼ばれる、その名のとおり真っ黒の龍がいたんです。
恐ろしい力を持ったそれは、人間を脅かし、喰い、人間には抵抗するほどの力もなく、もう人間は絶滅の危機にさらされていた。」
そこでレイシアは一息つき、椅子の上に置いた龍の絵を手に取る。
「伝説では、このあと黒龍は殺されることになっています。
それも、力がないはずの、ただの人間に。」
レイシアは龍の絵をまた椅子にふわりと落とす。
変わりにシギとダグラスから騎士の絵を取り、龍の絵の上に重ねた。
「それがこの男。
当時は王家の正騎士をしていたと言われ、のちに『黒帝』と呼ばれる男です。
この男が龍を退治し、世に平和が訪れた、というのが伝説の全貌ですが………。」
そこで言葉を止めたレイシアに、ダグラスが顔をしかめる。
「レイシアの考えは違うのか?」
シギも同じように目を細めレイシアを見つめる。
レイシアはそれにゆっくりとうなずく。
「はい。
黒龍は龍なんですよ?
ただの人間に殺せるはずがない。
さらにはそのあと、妙な噂もあるんです。
『黒帝』は黒龍を殺したあと、乱心した、と。
多くの人間を殺すようになり、さらに最後には霧になって砕け散ったとまで言われているんです。
おかしいと思いませんか?」
ダグラスがそれに小さくうめく。
「確かにおかしいが……
だがそれはただの伝説だろう?
よくある話じゃないか。
悪者退治をしたが、最後に敵が放った呪いや毒で英雄が死ぬというのは………」
と、そこでダグラスとシギが同時に弾かれたように顔を上げる。
それを見てレイシアもうなずく。