zinma Ⅲ
赤煉瓦と血
2人の旅人、レイシアとシギを見送ってからというもの、ナムは上の空だった。
今日の朝早くにふたりは宿を出て行った。
ナムの両親も始めは別れを悲しんだが、今日もいつものように大慌てで仕事をしたために、なんとか元気になったようだ。
ナムは一見いつもと変わらず、明るいよく働く娘といった感じだが、両親にはわかっていたらしく、今日は早く休んで良いと言われた。
もう日が暮れ、夜になってしまった。
ナムは休めと言われてもすることもなく、街を散歩したあとは部屋で刺繍をして暇をつぶしていた。
2人の旅人が去って、悲しいというわけではない。
ただ、なんとなく拍子抜けしてしまっているのだ。
彼らがやって来てからは、たった1日しか経っていないというのに、もう何ヶ月も経ってしまったかのような感覚だった。
突然美しい青年が2人やって来て、それも自分より年下。
さらに街を案内し、夜には恐ろしい男たちにさらわれそうになる。
それを2人が鮮やかな手並みで撃退し、朝にはここを去った。
突然人生が変わるような経験をして、さらに突然もとの平和な日常に戻されても、頭が着いていかないのだ。
そこまで考えてナムははっとする。
いつの間にか刺繍をしていた手を止め、考えにふけっていたらしい。
今は何をしてもまともに手がつけられない。
刺繍をしていた布をテーブルに置き、ナムは窓際に行く。
カーテンと窓を開け、外の少し寒い新鮮な空気を思いっきり吸い込む。
それに少し頭が冴え渡り、すっきりとする。
月の位置からして、いつの間にか深夜近くになってしまっていたらしい。
その夜空を見上げ、
「しっかりしないと…。」
とため息と共につぶやく。
そのとき。