zinma Ⅲ
すると窓の下を慎重にのぞいていたシギがこちらを振り向く。
「師匠、やはり下は手薄です。
ほとんどが今部屋の外へ来ているようですね。」
それにダグラスがはっと目を見開くが、レイシアは気にする様子なく荷物を装備しながら聞く。
「人数は?」
「十数人です。」
「なるほど、楽勝ですね。」
そう言ってレイシアは最後の荷物をかつぐと、フードを被りながらダグラスのほうを振り向く。
「遅れないように着いて来て下さい。
いいですね?」
「ああ。」
フードをかぶったダグラスを確認すると、レイシアはひょいと軽く、荷物から取り出した何かを窓の外へ投げた。
パンッ!
何かが弾けたような高い音に続いて、数人の悲鳴と、何か煙が出てくるような音が窓の外から聞こえはじめる。
それと同時にレイシアが窓枠を蹴って屋根へと飛び上がっていく。
シギもすぐさま同じように飛び出したのを見て、ダグラスも窓から飛び出した。
屋根へ着地すると、レイシアとシギは風のような速さで屋根の上をかけて行った。
ダグラスもそれに着いて行きながら、宿の外にいた軍の兵士たちが煙にまかれているのを横目で見た。
なぜかそれがダグラスには気持ち良く思えた。
長年しばられていた軍から、今自分は自由になっているのだ。
それもあれだけ毎日毎日訓練を重ねていたというのに、その軍をいとも簡単に振り切ってしまう仲間たちと共に。
世界はこんなに広かったのだ。
もうダグラスは30年以上生きてきたが、ここでやっと、ダグラスは世界を見た。
世界最強と言われる軍に追われていても、今のダグラスには何も怖くなかった。
風見鶏が、西を指していた。