zinma Ⅲ
「だから言ったでしょ!
あたし人の観察は得意なのよ。」
機嫌の良さそうに言うティラに、ダグラスは笑いのこもったため息をはいた。
「ああ、わかったわかった。
今のはほんとに感心したよ。」
それにティラはまた嬉しそうに笑うが、突然真剣な目でダグラスを見つめる。
それにダグラスも思わずティラを見つめていると、さっきとは打って変わって、ティラが落ち着いた声音で話す。
「……ダグラスは、すごいね。
見た目からして、純血に近いキニエラ族なんでしょ?
姿勢とかちょっとした仕種からも、あんたが王家の軍にいたことがわかる。
でもあたしが知ってる軍のやつらとはちがう。
ちゃんといろんなことを考えてる目をしてる。
人の命の重みがわかってる。
だから今、軍服を着てないの?」
それにダグラスが瞳を揺らし、口を開くがティラがそれを遮ってつづける。
「ううん、ちがうね。
人をいっぱい殺したんだ。
殺したけど、それを背負って生きる覚悟をした。
今は何か強い意志があって、旅をしてるんでしょう?
それはあの2人に関係すること?」
こっちが逃げたくなるくらい真っすぐな澄んだ瞳で見つめるティラに、ダグラスは思わず目をそらす。
「………さあな。
とにかく、経歴については何も言わん。
今はあの2人と旅をしている。
ただ、それだけだ。」
それにティラはつまらなさそうに口を尖らせる。
「教えてくれたっていいじゃない。
でもこの調子なら、レイシアのこともわかるかな〜。」
また大股で歩いて行くティラを、
「あ、おい。」
とダグラスが引き止めようとするが、ティラは気にせずレイシアの近くにたどり着く。
「レイシア。」
ティラがそう呼ぶと、レイシアは少しだけ歩みを緩めて振り向く。
「なんです?
まさか私のことまで調べるんですか?」
レイシアは微笑んだままそう言う。
ティラはそれには答えず、わざとらしくあごに手を当ててレイシアの目を見つめて黙り込む。
しばらく、そのまま。
「んー!!」
ティラがそううめいたかと思うと、
「あーーもう!わかんない!
レイシアは謎だらけ!!!」
そう叫んで、降参と言ったように両手を上げる。