zinma Ⅲ
悪魔の帰還
数日歩き続けたのち。
「あれね。」
「ああ、あれだ。」
「予想より大きいです。」
「ほかの感想はないんですか?」
ある岩影から、そんなささやきが聞こえてくる。
目の前には、黒く塗られた石造りの建物が建っていた。
なんの装飾もない、建物。
しかし大きさだけが尋常ではなかった。
視界いっぱいに広がる要塞に、どこまでも伸びる高い壁。
その壁が、こちら側から西へ向かう道のりを完璧に塞いでいた。
おかげで視界いっぱいが黒に染められていて。
ただ建物に備えられた多いとはいえない窓から漏れる光だけが、視界に色を添えていた。
「確かに大きいわよね。
どれだけのお金かけたのよ…。」
「それは気になります。」
「ざっと見て、街3つ造れるほどでしょうね。」
「街3つ?!信じられない!」
「耳の痛い話だ。」
ここ数日の旅で、4人はずいぶんと仲良くなったようだった。
目の前の要塞がどうとか、そんなこと言われると俺の立場がないだとか、声をひそめてはいるが、わいわいと盛り上がる3人をレイシアがなだめる。
「ところで、そろそろ緊張感を持たないと、私には3人も守りきれませんよ?」
それに3人が同時にレイシアのほうを見る。
「確かに。すみません。」
「ああ、悪かった。」
2人が素直に反省する向こうで、ティラひとりが難しそうに顔をしかめる。
「ね、ね、レイ兄。
作戦はどうすんの?
やっぱりこれだけでかいんだから、そう簡単にはいかないわよ。」
それにダグラスも険しい顔でうなずく。
「ああ。
西の要塞は最近の虐殺が始まってから、警備が厳しくなった。
検問をごまかすのも難しいだろう。」
シギはまっすぐに要塞を見つめている。
しかしレイシアがそれににっこりと微笑む。
「だれが密かに忍び込むと言ったんです?」
『え?』
3人が声をそろえてそんな拍子抜けた声を出す。