zinma Ⅲ
「すみませーん。」
要塞は目の前へとやって来ると、さらにその迫力を増していた。
真っ黒に塗られた壁の石は、近づいてみると予想以上に表面がごつごつとしていて、よりいっそう冷たさを醸し出している。
もう首を持ち上げるだけではてっぺんが見えないほど高い壁が、レイシアの目の前にそびえ立っていた。
「すみませーん。」
そんなだれもが警戒するような建物を前に、レイシアはそんな間延びした声を上げていた。
「あのー、聞こえてます?」
すると、レイシアの何倍もある高い木製の門のてっぺんにある壁の石が、ひとつ外れる。
そこからオレンジ色の明かりが漏れたかと思うと、
「なんだ?
ここは一般人が通れるところではない!
許可証がないのなら帰れ!」
という男の声が聞こえて来る。
それにレイシアは相手の姿は見えないのにゆったりと微笑むと、口の横に手を当てて少し声を上げて言う。
「許可証はないんですけど、入れてもらえませんか?」
するとさっきの穴から、鎧を着た男が頭を出す。
「あぁ?!
なめてるのかお前!
旅人だって通すことはできないんだ!
さっさと帰れ!」
そう言って、また内側に抜いていたらしい石を壁にはめる音が聞こえて来る。
しかしそれに慌てることなく、レイシアが声を出す。
「収監番号1367816。
レイシア・リールですー。」
すると細くなっていっていた穴から漏れる明かりがまた広がる。
男がまた顔を出す。
「………1367816?
お前…おちょくってるんじゃないだろうな?」
冷静になったらしいその声に、またレイシアは上を見つめて微笑む。
「もちろん、ちがいますよ。
1367816。あなたもご存知でしょう?」
すると男はしばらくレイシアを見つめると穴の奥へと消え、壁の穴も埋まって光が消えてしまう。
しかし。
木が大きく軋む音が聞こえたかと思うと、高い門がゆっくりと要塞の内側へと持ち上がっていく。