zinma Ⅲ
レイシアはその様子を、にこにこと微笑んだまま眺めていた。
大きく軋みながら地面と平行になるまで底の持ち上がった門。
その向こうには30人ほどの兵士が、レイシアへ槍の矛先を向けた状態で整列していた。
その列の前、一人だけ、一本前に出た初老の兵士が後ろに手を組んだ状態で立っていた。
「やあ、久しぶりだな。レイシア。」
顔に深くシワの刻まれた彫りの深い顔立ちの男は、表情をまったく崩すことなくそう言う。
レイシアはそれに、両手を降伏するように掲げながら、にこにこと微笑みながら答える。
「ええ。お久しぶりですね。
マーガット少佐。」
その言葉と共に、兵士たちが小走りでレイシアのもとまで来て、レイシアを囲む。
マーガットは悠然とした足取りでレイシアの前までやって来ると、視線だけでレイシアを隅から隅まで見つめる。
「君を失って、もはや十数年だな。
元気でやっているようで、何よりだ。」
それにレイシアはまたにっこりと微笑んだ。
「10年ですよ。
7歳でここを出たので。
もう私も17になりました。」
ここには思い入れがあったのだ。
いや、良い思い入れではない。
最悪の、思い出のつまった場所だ。
そしてレイシアは細めた瞳で目の前の男を見つめる。
この男もレイシアの記憶にある姿からはずいぶんと変わってしまっていた。
かなり増えた白髪に、刻まれたシワ。
だがこの男が醸し出す雰囲気も、あの冷酷な青い瞳も、まったく変わってはいなかった。
そのマーガットが、口の端を上げて笑う。
「……ああ、そうだ。
10年、君を待っていた。
私もこの10年いろいろあってね。
今では中将の位を与えられている。」
マーガットはレイシアのまわりをゆっくりと歩きながら、続ける。
「君もずいぶんと偉くなったもんだ。
10年もどこにいたんだね?
探し回ったよ。
先日王城に乗り込んだとかいう輩も、もしかしたら君なのかな?」