zinma Ⅲ



「さあ、それはどうでしょう。

過去は気にしない。それがあなたのやり方だったはずですが。」


レイシアが微笑んだままそう返すと、マーガットはまたにやりと口を曲げる。


「ふん。その反抗的な態度。君はまったく変わっていないようだな。

10年経ったというのに、君は自分の存在を理解できていないのか?」


「…………。」


「はは、は、愚かにもほどがある。まあ、仕方ないと言えば仕方ないだろう。

君は、下等な化け物なんだからな。」



レイシアはまだにこにこと微笑んでいた。


この男に侮辱されるのには慣れていた。あの頃からずっと変わらない、この口調。


昔はこの男を恐れていたのだ。

それはもう、逃げ出したくなるほどに。いや、むしろ逃げる気力すら無くしてしまうほど、この男が恐ろしかった。


しかし今となっては。

感情も捨て、あの頃とは違い完璧な化け物に成り下がった今となっては。





こんなニンゲン。





恐怖って、なんだろう?






「まあ、いい。
どういった風の吹き回しでここへ戻ってきたのかは知らないが、帰ってきたからには覚悟はできているんだろうな?

10年前よりもたくましくなったようだし、いつもの日課も倍にしてもやっていけるだろう。どうだ?」


マーガットがにやつきながらそう言う。


「はは、どう答えようと、これからの予定は決めていただけるんでしょう?
ならばこんな無駄な問答は止めたほうが効率的かと思うのですが。」


そのレイシアの言葉に、マーガットが一瞬で間を詰めてレイシアの胸倉を掴む。そしてぎりぎりと首を絞めながら、くぐもるような低い声で、言った。


「貴様、まだ人間様への口の聞き方を知らないようだな。これからたっぷりと教えてやる。
覚悟することだ。」



マーガットはそう言ってレイシアを突き飛ばすやいなや、周りの兵士へ指示を出し、先に要塞の中へと消えて行った。


レイシアは身体を拘束されながら、その場にそぐわないほどの穏やかな、美しい微笑みでその背中を見つめていた。





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