zinma Ⅲ
『この化け物を第一級監獄へ連れていけ!!気を引き締めろ!絶対に二度と逃がすんじゃない!!』
そんな声が鼓膜に響いたかと思うと、要塞の門の前で兵士に囲まれていたレイシアが拘束され、連れて行かれる。
その光景を岩影から覗きながら、ダグラスとシギは声をひそめて言った。
「ダグラス、あの男のこと知っていますか?」
「ああ。軍の中では相当有名な男だ。
マーガット・コナー。
かなり冷酷で残虐な任務を誰よりも完璧にこなす。西の虐殺も彼が中心に行ってるって噂だが、詳細を王都の軍に報告しないことからも、定かな情報は入って来ないんだ。」
「なるほど。
さらに師匠とも昔接点があったということですね。」
「そうみたいだな。
コナー中将は西の支部に着いて長い。その経歴の中でレイシアの過去に関わっていたということだな。」
「ちょ、ちょっと!なんなのよ……」
そんな2人の会話にティラが割って入る。
「あ、あんたたちレイ兄の状況がわかるの?
あんなに遠いのよ!」
そう言ってティラは要塞のほうを指差す。
確かに彼らのいるところから要塞まではかなり距離があって、兵士たちの騒ぎ声でさえもやっと聞き取れるくらいなのだ。それなのに状況がわかるように会話するダグラスとシギを、ティラが不思議に思うのはしょうがない。
しかし。
「ここの情報はあらかじめダグラスが手に入れていたんですよ。あの男がここの要塞の核だということも承知の上でここへ来た。だから彼が師匠を迎えることも予想の範中だったというわけです。」
シギがそう説明する。
しかしこれは嘘だった。
シギとダグラスは、魔術によってレイシアの状況を得ているのだ。その魔術によって、レイシアの身辺の物音が聞こえるようになっている。さっきのレイシアとマーガットの会話が聞こえていたから、状況を知ることができているということだ。
しかしそれをティラに言うわけにはいかなかった。
ティラはただの人間で。
魔術なんて伝説だと思っていて。
レイシアたちのいる世界に、巻き込むわけにはいかないのだ。