zinma Ⅲ
果てなき闇
「ここが貴様が今後一生を過ごす場所だ。」
兵士に連れて来られたのは、本当に広い部屋だった。
少し高めの天井に、所々にある太い柱。明かりの一つもないこの部屋では、向こう側の壁はまったく見えなかった。しかしそれが暗闇だけのせいではなく正真正銘広いのだということが、耳が痛くなるほどの静寂によって伝わってきた。
暗闇と石だけで作られた世界。
その世界をひとしきり見つめ、冷たい空気を一度深く吸い込むと、レイシアは肩越しに兵士のほうを振り返る。
「相変わらず、無駄に広いですね。」
「無駄口をたたくな!さっさと入れ!!」
兵士はレイシアの背中を一度思いっきり蹴る。レイシアはそれに少しよろけると、
「はいはい、わかりましたよ。」
足に付けられた鉄の重しを引きずりながら部屋へ入る。兵士たちも後ろから着いてきて、まだレイシアに槍をつきつけたままレイシアを部屋の奥へと誘導していった。
しばらく進むと、部屋の中心と思われる場所に、2本の鎖がぶら下がっていて、床にも同じく2本の鎖が取り付けられていた。
「そこへ立て!!早く!!」
そう言ってまた蹴られるので、レイシアがおとなしく指示どおりに立つと、一人の兵士が荒々しくレイシアのプラチナの髪をわしづかみにして、膝をつかせる。そして手枷を外すと、数人がかりでレイシアの腕を天井から下がった鎖につなげた。床の鎖も足につけられ、膝をついて両腕を宙づりにされた状態で身動きが取れなくなる。
「これはこれは。特別待遇ですね。」
両手につながれた鎖を交互にながめながらレイシアがそうつぶやく。兵士たちはその間も何度も何度も鎖がつながれていることを確認すると、
「確認取れました。」
と、さっきまでレイシアと会話をしていた兵士に報告をする。どうやら彼はこの兵士の中では上官に位置するようだった。
制服からすると中佐、といったところだろうか。
「よし。第一班はこの牢獄の外を見張れ。第二班は回廊。他は持ち場に戻れ。マーガット中将には俺から報告する。」
『はっ!』
掛け声とともに兵士たちも中佐も闇の奥へ消えていく。残されたのはレイシアと、すぐ目の前の床さえ見えないほどの暗闇だった。兵士たちの足音も遠くなっていき、しまいには静寂だけが置き去りにされた。