zinma Ⅲ
耳をつんざく、静寂。
「……………ふむ。」
レイシアは小さくそうつぶやくと、吊り上げられた手首の先をくるくると動かして、光輝く小さな魔法陣を描いていく。そるが一瞬きらめいたのを確認すると、
「そっちの声も聞こえるようにしましたよ。」
だれもいないはずの部屋に向かって小さくつぶやく。すると、
『あ!師匠、大丈夫ですか?』
レイシアの鼓膜に直接、そんな声が聞こえて来る。さらに、
『おい、これからどうするつもりなんだ?それにコナー中将とレイシアはどんな関係が………』
という声も聞こえてきて。それにレイシアは小さく笑うと、口を開く。
「私は無事ですよ。それより、ティラさんは………」
『ああ、ティラは気絶させておいた。牢獄に入ったらお前から連絡が来るだろうと思っていたからな。あいつに魔法陣のことを知られるのは、まずい。』
ダグラスのそんな声に、レイシアは小さく微笑む。つい先日まではティラと同じように、普通の世の中で、魔法陣を信じないただの人間として生きてきた男なのに。もうすっかり、コチラ側の一員になっているようだ。
それが良いことなのか、悪いことなのか。
「神のみぞ知る、というやつですね。」
『ん?なんだ?』
思わずつぶやいた言葉にダグラスが聞いてくるが、レイシアはそれに笑うだけで返し、続ける。
「いえ、それならよかった。
あなたたちももうわかっていると思いますが、私は今この要塞の最上階、第一級監獄に収容されています。名前のとおり第一級犯罪者が拘留される場所なので、あなたたちが忍び込むのは難しいでしょう。」
『はい。それはわかるのですが……
私たちの魔術をもってすれば、突破することくらいはできたのでは?』
「ああ、確かに突破はできます。
しかしその場合、今ダグラスがそうであるように、あなたも反逆者として追われることになってしまいます。その場合、今のように自由に旅を続けることはできなくなります。それは面倒ですから、極力避けたいんですよ。
軍はまだ面目を保つために大佐でありながら逃亡したダグラスを公に追うことはありませんが、今回要塞を攻撃でもしたら、迷わず世界に知れ渡るでしょう。」