zinma Ⅲ


『……なるほど。ならば仕方ありませんね。

それで?師匠はこれからどうするんです?』


その答えはもうとっくの前に決めていた。

ここに来る前に。ティラに会う前に。西へ行くのを決める前に。シギに出会う前に。

そして。



旅に出る前に。






「要塞を破壊します。」





『え?』




「聞こえませんでしたか?この要塞を、内側から破壊するんです。そうすればあなたたちもここを通過できる。そうでしょう?」


『え……し、師匠。それは本気なんですか?』


『おい、レイシア!!お前何を……お、俺もそっちへ……』

「ダグラス。」

『いや、だが……』

「ダグラス。」

『………。』



ダグラスが黙り込むのを聞いて、レイシアは口元をほころばせる。



王都のドープ元帥に会うこと。

この西の要塞へ来ること。


これは、誰にも譲れない意志だったのだ。特に、ここへ来ることは。


もうレイシアには感情はない。彼らが昔レイシアに何をしたにせよ、今はなんとも思わない。恨んでしまえば、王都のときのように暴走してしまう。

しかし、この要塞を破壊することは、感情の問題ではなかった。かつてここを死ぬほど憎んだ自分の気持ちの残骸が、そうさせていたのだ。


そこでレイシアは、自分が両拳を握りしめていることに気がついた。手を開いてみると、手の皮が少し切れていて。


そんなにも、あのころの自分は、ここを憎んでいたのか。



それにまた小さく微笑む。



「いいですね。私がここを目茶苦茶にして、西へ進みます。作戦については私が勝手にやりますから、ご心配なく。

では、もう魔術を解きます。もう動きはじめますから。」


『え、いや、ちょっと、師匠!!』

『レイシア!おい!』

「では、また後ほど。」

『し………………』




そこでレイシアは魔術を打ち切る。

大きく息を吸い込み、吐く。

レイシアが瞳をすっと横へ向ける。するとその視線の先から、靴音が響いてくる。



それにレイシアが。



悪魔の笑みを、たたえた。










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