zinma Ⅲ













「あの化け物は確実に捕らえてあるんだろうな。」


「はっ、マーガット中佐。抵抗もしていませんでした。」


「…ふん。まあ、奴が一番この牢獄の恐ろしさを知っているからな。抵抗する気力を失うことにも無理はない。」



そう言ってマーガットは視線だけで辺りを見回した。


今マーガットと中佐は、レイシア・リールが収容されている牢獄の中を歩いていた。

中佐の持つ松明によってかろうじて足元だけが照らされてはいるものの、そこから先には果てしない漆黒の闇が広がり、2人の靴音と松明の揺れる音だけが響き渡っていた。

下手な王城の広間よりも広い、部屋。


この完全なる無に、入った者は必ずと言っていいほど狂う。



狂うか、死ぬか。


それだけの世界。
だれ一人として、生きて逃れられる者はいないのだ。





あの化け物も、そのはずだった。

しかし、10年前。
まだ6歳の子供だったあの化け物は、この牢獄から姿を消した。残っていたのは、あの子供がどうやったのか、引きちぎられたような鎖と、壊された壁だけだった。


あの日の光景を思い出して、マーガットは唇を強く噛む。



「…………くそ。化け物が……っ。」


「え?何です?」


「何でもない!」




そうしているうちに、あの化け物のいる場所へ近づく。目印になっている赤い印の書かれた柱が明かりに照らされ、もう数歩で奴の姿が見えるはずだ。


10年前の続きを、奴にしてやる。















「…んなっ!!どういうことだ!!」



中佐が慌ててそこへ向かう。当たり前だ。



そこには、何も無かったから。



奴を繋いでいたはずの鎖も、4本すべて消えている。しかし無理矢理引き抜いたような跡は、天井にも床にも残ってはいなかった。

完璧に、姿を消していた。



「くそぉっ!どうやって………」


そう言って松明を投げ捨てて、他の兵のところへ走っていく中佐の背中を、マーガットは黙ったまま見送る。


絶対に逃げられるはずはないのに。

鎖は頑丈に繋がれていたのだ。



鎖ごと、消えるとは。



「…………くそっ。」


苛立たし気に蹴った松明が、唇を噛み切ったマーガットの表情を照らしていた。







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