zinma Ⅲ
「だああああ!!
レイシアはどうするつもりなんだ!」
「ダグラス、落ち着いてください。確かに無謀な話ではありますが、師匠が軍の人たちに簡単に捕まるとも思えないでしょう?」
「そうだが…………」
ダグラスとシギは相変わらず岩影に隠れているだけだった。
苛立ったように短い金髪を掻きまくるダグラスを、シギが無表情でなだめている。さらにシギはというと、さっきから何度も魔法陣を描き、レイシアに魔術をつなげようとしているのだが、要塞にもたくさんの人間がいるために、まったくうまくいっていなかった。
さらにさっきまで門を見張っていた兵士の数人が慌ただしく要塞へ入って行ったところを見ると、どうやらレイシアは逃亡に成功したらしい。気配を消す能力に関しては、レイシアに敵う者はいない。近くにいても気づかないほどなのに、この遠距離からレイシアの気配を探しだし、さらに確実にそのレイシアに向かって魔術を放つのは不可能に近かった。
さすがのシギも、それに舌打ちを打つ。
「………しかし、このまま黙って待っているのにも限界がありますね。あまりにも心配です。」
「ったくレイシアのやつ………。無事ならいいんだが…………」
二人が同時にため息をついたところで。
「………どういうこと?」
2人が弾かれたようにダグラスの背後を見る。そこにはさっき気絶させたティラが、岩にもたれさせた状態で座っているはずだった。
しかしそこには、体勢こそ同じなのだが、ぱっちりと赤い瞳を開いたティラがいて。
その釣り気味の猫目をまっすぐに2人に向けて、ティラは真剣な声音で言う。
「……シギ。あんた、魔術を使うの?それってどういうこと?そのさっきからきらきら光ったり消えたりするのが関係あるの?それにダグラス。あんた大佐だったの?軍に秘密裏に終われてるって言ってたわよね?どういうことなの?」
驚いたような、後悔するような顔でティラを見つめたままのダグラスを横に、シギは無表情のまま、
「………ああ、師匠。どうやら私たちは予想以上にいろんな人の運命を巻き込んでいるようですよ。」
とつぶやいたのだった。