zinma Ⅲ
「第一部隊、第二部隊はこの牢獄の中を調べろ!!ここから出られるはずはないんだ!まだ中にいる可能性がある!隅から隅まで探せ!」
『はっ!』
「第三、第四部隊は外の警護を固めろ!絶対に外へ逃がすんじゃない!」
『はっ!』
「第五、第六、第七部隊は私に続け!この要塞中を捜索する!」
『はっ!』
それぞれの部隊に指示をだす中佐と、慌ただしく移動していく兵士たちの様子を、マーガットは静かに見つめていた。
自分は本来はこの任務の最高責任者ではなかった。10年前のときも、あの化け物の実験の指揮を取っていたのは王都にいる元帥、ドープ・ドルーシュであり、自分はただの西の支部の責任者というだけだった。
今のこの状況も、本来ならばドープ元帥へ遣いをよこして返事を待つのが得策なのだが、奴が収容されたのはたった数十分前の話で、王都までの伝達も間に合うはずがない。
今は何よりも、奴を逃がさないのが先決だった。
「中将!では私は要塞の他の場所の捜索を行います!」
そう報告してくる中佐にマーガットはうなずき、走って行く彼とその後ろに続くたくさんの兵士の背中を見送った。
そこで、また口の中に鉄の味が広がることに気づき、手で唇をぬぐう。するとやはりまた唇は噛み切られていた。いつの間にか、自分は唇を噛み締めていたようで。
「……くそっ。あの化け物が…!いったいどうやって………」
血のついた手を握りしめながら、マーガットはそううめいた。
牢獄の鉄格子は壊されてはいなかった。10年前のように壁が壊されてもいない。ならば外に逃げてはいないはずなのだ。だがさっき牢獄の中を出る前に、一度気配を探ってはみたものの、奴の気配は見つからなかった。
さらに謎なのは、あの鎖だ。鎖ごと消えるなんていうのは有り得ない話なのだ。我々軍も、10年前のことを反省しないほど馬鹿ではない。奴が逃げたあと、壊された壁と鎖の強化を行った。それなのに奴は、鎖ごと消えてしまったのだ。それも天井にも床にも鎖の抜かれた跡はなく、それどころかクギを刺していた跡も傷つかず残っていた。