zinma Ⅲ
「くそぉっ!!!!」
マーガットはあまりの熱気に左腕で顔をかばいながら、炎の向こうで踵を返すレイシアをにらみつけた。
あまりの炎に、物置にいた兵士たちが慌てて出てきて騒ぎはじめる。
必死で消火をする兵士たちを横目に、マーガットはまだレイシアの去っていった階段のほうをにらんでいた。
拳を強く握りしめる。
奴は笑っていた。
相変わらずこっちを馬鹿にしたような顔で。
「……くそっ。くそぉっ!!まだドープ元帥に連絡が取れないのか!!」
あまりの険相に、近くにいた兵士が肩を強張らせる。
「は、はい!!連絡係が馬を走らせてはいるとは思うのですが…」
「ちっ!時間がかかりすぎだ!」
まだ消えない火の手を見つめながら、マーガットは苛立たし気にそう言い放った。
今はまずい状況だった。
明らかに人員が足りないうえに、あの化け物の力が予想以上だった。明らかに、10年前とは違う。
10年前は、ただの子供だった。
あのころ。
ドープ元帥の指揮のもと、自分たちは謎の少年に拷問と実験を繰り返していた。
聞くところによると、彼は生まれの村で突然異変を起こしたのだという。
村で暴れた若者を、一発で倒したうえに、そのときの少年は青白く光っていたとか。
そんなこと有り得ない、と思った。
しかし少年を見て、考えを変えた。
見たことのない色の瞳。
そして。
有り得ないほど、美しい容姿。
あの少年を痛めつけるのを嫌がった兵士たちが何人もいた。
あれは神の落とし子だ、とか。
傷つけたら呪われる、とか。
そんな兵士たちはすべて牢獄に入れてやった。
役立たずは必要ないのだ。
あのころの少年は、本当にただの子供で。
殴れば泣くし、やめろと叫んで暴れたりもした。
叫ぶたびに殴ってやったら次第に大人しくはなった。
収容して1年を過ぎたころには、ただの人形になってしまった。口をきかず、焦点の合わない瞳でただ殴られるだけの人形。
ただ、実験をするたびに、ぶつぶつとつぶやくことはやめなかった。
僕は人間だ、と。