zinma Ⅲ
「………何が………何が人間だ。こんなの……人間の諸行ではないわ……!」
マーガットは口をぎりぎりと噛み締めながらそううめいた。
突然目の前に現れた炎。
どろどろに溶けた鎖。
まったく感じなかった気配。
すべてが、説明がつかなかった。
そこで炎の消火がやっと終わる。マーガットはその瞬間、すごい勢いで走り出した。
「あ、中将!!!」
後ろからだれかが呼び止めるが、気にする余裕はなかった。
一刻も早く奴を追い掛けるのだ。
この手で、奴を捕まえてやりたい。
その、一心で。
「さて、と。」
麻袋から取り出した荷物をすべて装備して、レイシアはゆっくりと歩き始めた。
レイシアがコートの下にいつも着ているのは、かなり軽いがしかし頑丈な戦闘服。
ついこの前まではカリアたちの残した服を着つづけていたのだが、先日王都に行ったときに闇市で買った。
15歳で旅に出てから、少し身体が大きくなったからだ。
17歳にしては、小柄な身体。
しかしその全身にはたくさんの武器がしこまれていた。
光り玉はいくつも腰のポーチの中に入っているし、ナイフに塗るための毒が靴の踵の部分と襟の裏に隠してある。ナイフの数なんかは数えられないほどだ。
普通の人間が彼の装備を見たら、慌てて逃げ出す程の殺人用具が備え付けられている。
レイシアが歩む道は、そういう道だった。
13年前に、この要塞へ連れて来られてから。
自分の運命は、こう決まっているのだ。
重いコートはまだ手に持っていた。
レイシアが指を振るうと、隣の壁からまた女の形が浮き上がる。
レイシアがコートを女に持たせると、彼女はひとつうなずいて、コートと共に壁へと沈んで行った。
これから動きまわるのに、あのコートは邪魔だった。
王都に忍び込んだときとは違う。
ああやって身を潜めながら進むのではない。
「んー。久しぶりに本気で身体を動かしますね……。」
レイシアはそう言って一度大きくのびをすると、肩をまわしながら廊下の奥へと消えて行った。