zinma Ⅲ
長く暗い廊下に、やけに靴音が響き渡る。
上の階での騒ぎとは裏腹に、そこには静寂だけが鎮座していた。
レイシアは今要塞の中枢、第二級監獄の廊下をゆったりと歩いていた。
目だけを動かし、監獄の間取りを覚えていく。
時折、いくつかの牢獄に収容された犯罪者たちが、静かな、しかし死んだような瞳でレイシアを見つめていた。
「おい。」
その中の一人がレイシアに声をかけた。
レイシアがそれに振り向くと、一人の男が牢獄の中からレイシアを見上げていた。
第一級ほどではないにせよ、数十人は入りそうな広い牢獄の中にあるのは粗末なベッドと、飼い犬の水入れのような皿だけだった。
「なんでしょう?」
レイシアがその場にそぐわないような微笑みでそう聞く。
暗がりでよく顔は見えないが、男が鼻で笑ったのだけはわかった。
「あんた、そんな綺麗な顔しといて脱獄囚か?」
低くしゃがれた声が響く。
「はは、まあそんなところです。
なぜそれを?」
男は頭をゆっくりと掻きながら答えた。
「さっき軍の馬鹿が何人か走ってったんだ。
いつもはくそみたいに静かなここが騒がしくなるのは、脱獄囚が出たか、戦争でも起きたかぐらいだろうからな。」
男がそう言って笑うので、レイシアも小さく笑う。
「ああ、納得です。
随分と長いことここにいるようですね。」
「まあな。こんな暗いところじゃ時間の流れなんてないようなもんだ。もう何十年かになるのか、それともまだ1年や2年なのか…。小窓ひとつありやしねぇ。」
「そうなるでしょうね。」
するとそこで男がレイシアを真っすぐに見つめる。
黄ばんだ目が、レイシアの瞳と交差する。
「……あんたが相当な奴だってことは俺にだってわかる。これでもここに捕まってるとおり、ある程度腕には自信があるもんでな。あんたと戦ったりしたら速攻で殺されるだろうな。」
「はは、それはどうでしょうか…。」
「…ふん。まあいい。俺はただ、あんたがこれからやろうとしてることには興味がある。」
そこで男が立ち上がり、レイシアと男を隔てている鉄の格子へと近寄って来る。