zinma Ⅲ



男の顔はかなり汚れていた。


黒か焦げ茶なのかわからないほど汚れ肩まで伸びた髪。髭も生え放題で、人相をほとんど隠してしまっていた。

しかし思慮深そうな青い瞳だけは澄んでいて、犯罪者、というよりも………


「元軍人、といったところでしょうか?」


レイシアがそう聞くと、男は囚人服のポケットに両腕を突っ込んだだらしない姿勢で笑う。


「はっ。ご名答だ。
これだけ堕ちれば軍にとっても俺にとっても恥な経歴だ。」


自嘲するようにそう言って笑う男に、レイシアは格子への距離を縮める。



「何をしたんです?」

「何も。国のために働いた。それだけだ。」

「というと?」

「くそみたいな上官がいたから、切り捨ててやったんだ。」

「それで牢獄行き?」

「まあな。」

「あなたはおもしろいですねぇ。」

「あんたほどじゃねぇよ。」


そう言うと男は格子へ近寄り、両腕を向こう側へ出して格子に寄り掛かる。



「あんたはここを潰そうとしてる。そうだろう?」

「ええ。」

「はっはっ、答えるのかよ。」

「隠すことではありませんから。」

「正論だな。なぜそんなことをする?」

「西へ行くのに邪魔だからです。」

「それだけか?」

「いいえ。」

「じゃあなんだ?」



レイシアはにっこりと微笑む。


「ここが嫌いだからです。」



男は拍子抜けしたように目を見開くと、突然豪快に笑い出す。


「はっはっはっは!!
あんた最高だな!気に入ったよ。どうやら気が合いそうだ。」


そう言うと男は牢獄へ戻り、石造りの床の一部を外す。

石の重い音が響いたかと思うと、男はそこから一枚の紙とカギを取り出した。


それを手にしてまた格子の方へ戻ってくると、それを格子の向こう側のレイシアへと渡す。



「おら。それ、やるよ。」


「これは……?」



レイシアが紙を広げてみると、埃にまみれて黄ばんだそれは何かの地図のようだった。


「この要塞の地図だ。普通のには書いてない通路まで書いてある。こんだけ広い要塞となると、兵士の避難のための隠し通路がかなりある。
それからそのカギ。それはここの武器庫のやつだ。あんたならカギなんか使わなくても入れるだろうが、カギがあったら中の物を傷つけずに持っていけるだろ?好きなだけ持ってってやれ。」



< 279 / 364 >

この作品をシェア

pagetop