zinma Ⅲ
男の顔はかなり汚れていた。
黒か焦げ茶なのかわからないほど汚れ肩まで伸びた髪。髭も生え放題で、人相をほとんど隠してしまっていた。
しかし思慮深そうな青い瞳だけは澄んでいて、犯罪者、というよりも………
「元軍人、といったところでしょうか?」
レイシアがそう聞くと、男は囚人服のポケットに両腕を突っ込んだだらしない姿勢で笑う。
「はっ。ご名答だ。
これだけ堕ちれば軍にとっても俺にとっても恥な経歴だ。」
自嘲するようにそう言って笑う男に、レイシアは格子への距離を縮める。
「何をしたんです?」
「何も。国のために働いた。それだけだ。」
「というと?」
「くそみたいな上官がいたから、切り捨ててやったんだ。」
「それで牢獄行き?」
「まあな。」
「あなたはおもしろいですねぇ。」
「あんたほどじゃねぇよ。」
そう言うと男は格子へ近寄り、両腕を向こう側へ出して格子に寄り掛かる。
「あんたはここを潰そうとしてる。そうだろう?」
「ええ。」
「はっはっ、答えるのかよ。」
「隠すことではありませんから。」
「正論だな。なぜそんなことをする?」
「西へ行くのに邪魔だからです。」
「それだけか?」
「いいえ。」
「じゃあなんだ?」
レイシアはにっこりと微笑む。
「ここが嫌いだからです。」
男は拍子抜けしたように目を見開くと、突然豪快に笑い出す。
「はっはっはっは!!
あんた最高だな!気に入ったよ。どうやら気が合いそうだ。」
そう言うと男は牢獄へ戻り、石造りの床の一部を外す。
石の重い音が響いたかと思うと、男はそこから一枚の紙とカギを取り出した。
それを手にしてまた格子の方へ戻ってくると、それを格子の向こう側のレイシアへと渡す。
「おら。それ、やるよ。」
「これは……?」
レイシアが紙を広げてみると、埃にまみれて黄ばんだそれは何かの地図のようだった。
「この要塞の地図だ。普通のには書いてない通路まで書いてある。こんだけ広い要塞となると、兵士の避難のための隠し通路がかなりある。
それからそのカギ。それはここの武器庫のやつだ。あんたならカギなんか使わなくても入れるだろうが、カギがあったら中の物を傷つけずに持っていけるだろ?好きなだけ持ってってやれ。」