zinma Ⅲ
その地図とカギを確認して、レイシアは男に聞く。
「なぜこれを持っているんです?」
「軍の奴らから頂戴したんだよ。あいつら隙がありすぎだ。」
「はは。ですが、これを手に入れられるんなら、ここのカギを取るなり、外に出る方法はあったでしょう。」
「まあな。だがそんなことはしない。」
「なぜです?」
それに男はしばらく黙り込み、格子の手前の床にどかっと座ってあぐらを組む。
「………やりたくねぇんだよ。
ここで逃げちまえば、自分がやったことを恥じてる気がする。罪を認めて、生きていかなきゃならねぇような気がするんだ。
だが俺は後悔はしてねぇし、もしあの時剣を抜いていなかったら、それこそ俺はもう今頃は自分の首を切っていただろうな。
だから俺は死ぬまでここにいる。ここにいて、誇りを貫く。」
遠い目でそう言う男に、レイシアは表情を変えないまま言う。
「私は人の生き死にには興味はありません。
戦って死のうが病で死のうが。生き残ろうが生きたがろうか、全く気にしない。
くだらないからですよ。
どうせ人は簡単に死ぬし殺せる。
しかしあなたが死ぬべき人間ではないことは確かです。あなたが生きることによって救われる命もあるのでしょう?あなたの命はあなただけのものではない。」
それに男はまた鼻で笑う。
「あんたにそう言ってもらえるのはありがたいが、この気持ちを変える意思はさらさらない。
俺の未来には確かにいくつかの可能性があるだろう。だが、それと運命とは別問題なんだ。
人には未来って馬鹿みたいなもんが必ず与えられるが、それは一時の夢にすぎない。結局は神によって行く先が決められていて、俺達みたいな小さな人間はそれに従わざるを得ない。
現に今俺は牢獄の中にいて、あんたは牢獄の外にいる。昔は平和だったはずで俺だって夢があった。だがその夢を叶えようとした途端、予想外の人生が俺を待っていた。」
そこまで言って男は一度息をつく。
暗がりからのぞく真っ青な瞳は、揺れることなくレイシアを捕らえていた。