zinma Ⅲ
「たとえここを出ようと、俺には犯罪者の汚名が着いて回って、軍に戻ることはおろか、まともな人生を送ることなんてできないんだ。昔見たはずの夢はいつの間にか塞がれてしまって、俺に残された未来はただひとつ、犯罪者の人生だ。
そんなことは俺の夢にはなかったはずなのに、叶えたかった夢は神が俺から奪い去ったんだ。運命っていうのはそういうもんだ。結局俺が行き着く先はここだったということ。」
そして男はまた頭を掻き、口の端を上げて笑う。
「まあそれでも諦めきれずにその地図とカギを盗んだが、悟ったんだ。俺はもうここから逃げられない。運命からも。
だからあんたにやるよ。もらうからにはちゃんとやれ。いいな。」
男の瞳にレイシアは静かに微笑み、一礼する。
それをめんどくさそうに男は片手で払うので、笑う。
「ありがとうございます。
ちゃんと目茶苦茶にするので、大丈夫ですよ。」
それにまた男は大きく笑い突然立ち上がると、格子の間から手をのばしてレイシアの頭を豪快になでる。
あまりの出来事にレイシアが頭を押さえ呆然としていると、
「はっは!なんて顔してんだ。
とにかく、あんたに会えて楽しかった。初めて話のわかるやつに会えたよ。
欲を言えばもっと早くに会っていろいろ話したかったもんだが、これも運命だな。こんな馬鹿が仲良くしてたら神も面倒になるだろうしな。」
と言うので、レイシアがまた微笑むのを見て、男は満足げな顔になる。
そして気づいたように、
「ああ、そうだ。
あんた名前は?」
と聞いてくる。
「レイシア・リールです。」
そうレイシアが微笑んで答えると、男は何度かうなずいて言う。
「レイシア。レイシアか、良い名だな。
俺はロギだ。故郷で名字はなかったんだが、軍に入ってスターゲッツの名をもらった。軍の兵士の名前らしい。」
「ロギ。覚えておきますよ。
いつかあなたが堂々と外を歩けるときがきたら、また会いましょう。」
ちょうどそこで、廊下の奥から兵士たちの騒ぎ声と足音が聞こえてくる。
2人同時にそちらを見て、レイシアは地図を懐へしまうと、
「では、また。」
と言って、兵士の声が聞こえてくるのと同じ方向へと走って行った。
その背中が暗闇に消えるまで見つめ、ロギは悲しげに微笑む。
「レイシア。神はお前が思ってるのよりずっと残酷なんだ。」