zinma Ⅲ
兵士たちが去ったのを確認し、マーガットは手をついていたテーブルを思いっきり殴りつける。
拳からは血が流れ、まわりにいた兵士たちがびくりと体を振るわせるが、そんなのはどうでもよかった。
あの化け物が10年前にここを脱獄してから、必死でこの要塞の強化をしたのだ。
とくに壁や床の石は、莫大な金を投資してわざわざクル山脈の方から取り寄せた最強の石材をつかっている。
たとえ何百という爆弾がここへ投げられたとしても、びくともしないはずなのだ。
それがたかが地震で、崩れた。
今の地震だって本当ならば有り得ない。
もともとこの要塞をここに建てたのも、地形や各都市からの距離などを何度も何度も吟味して、最も最適な土地を王家が購入したのだ。
もちろん、地震が起きにくいという条件も含めて。
「…………奴だ。」
マーガットは聞くものすべてが凍りつくような低くくぐもった声でつぶやく。
「……すべてが、あの化け物の……。」
唇を思いっきり噛み締め、もう一部テーブルを殴る。
奴は本気でここを潰す気だ。それも最悪の方法で。
この要塞の再建が困難になるほどにここを破壊し、さらには兵士たちの士気まで根こそぎ奪い去る。
もうすでに効果は出ていた。
今マーガットのまわりにいる兵士のほとんどは、これがあの化け物の仕業だということに薄々感づいているようだった。
そしてこれが、負け戦だということも。
その兵士たちを横目で見て、マーガットは大きく息を吸う。
「いいか!!よく聞けぇっ!!!!」
突然の地面を揺るがすような大声に、その場にいた兵士すべてが顔を上げる。
「お前たちもわかったとおり、あの化け物は本気で我々との戦闘を望んでいる!!
だがよく考えてもみろ!
奴はたった一人なのだ!!!
我々には誇り高き仲間たちがいる!!
我々は今まで奴の捕獲に集中しすぎていた、ちがうか?!
これからは奴との戦闘を我々の任務とする!!!いいな?!」
『はっ!!』
一気に士気の戻ったらしい兵士たちを見て、マーガットはにやりと微笑む。
奴の思い通りに、なってたまるか。