zinma Ⅲ




笑みのこもったようなその囁きは、なぜかマーガットの耳元で聞こえた。




それにマーガットが弾かれたように振り向くが、後ろの兵士たちは不思議そうな顔をする。

しかしそこで。


「ぐぁああぁあ!!!」

「う、うわああああ!!!」



軍の後ろのほうからそんな叫び声が上がる。

それにすべての兵士がざわめき、さらに後ろのほうから次々と悲鳴が聞こえてきて。


マーガットが目を細めると、かすかに血が見える。



「どうしました?」



その声にまたマーガットは振り向く。


するとさっきと同じ場所にレイシアは立っていて、にこにことマーガットたちを見下ろしていた。


「…………貴様ぁ……っ!」


レイシアの手に握られた剣には、血がついていた。



「貴様……いったいどうやって…!」


「どうやって?わからなかったんですか?では、ゆっくりやりますから、よく見てください。」


そう言ってレイシアの髪がなびいたかと思うと、突然瓦礫の上から消える。

マーガットが驚いて目を見開くと、マーガットのすぐ後ろにいた兵士数人が悲鳴を上げることなく突然倒れる。


それに振り向いたところで、

「見えました?」

と、またレイシアの声が振り向いたのとは逆の耳元で聞こえる。


「…………ちっ!!!」

舌打ちをしながら剣を抜き、そのままレイシアの声が聞こえたほうへ思いっきり振り抜く。


そこにいたらしいレイシアが剣を跳んでよけ、さらにそのまままた瓦礫へと着地する。

レイシアはさっきまでの穏やかな微笑みを消し、見下したような冷たい微笑みを浮かべる。



「今のところ誰も殺してはいませんよ。ただ、先ほど切った兵士の方達に関しては、多少障害が残るようにはなっています。そういうところを傷つけましたので。」


それに剣を構えてマーガットが唇を噛む。


「……う、うわああああああ!」

突然そんな悲鳴が上がったかと思うと、数人の兵士が後ろへと逃げていく。

それにマーガットが声を上げようとするが、それよりも先に、


ヒュッ!


風を切る音と共に、一本の矢が一人の兵士の後ろ足へと刺さる。

さらに次々に矢が飛び、正確に兵士たちの足元だけを貫く。




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