zinma Ⅲ
それにマーガットが冷や汗をかきながら振り向くと、やはりそこには弓矢を構えたレイシアがいた。
右手に持った矢を左手の弓に添えた状態で、腕を下ろす。
もうすべての兵士が同じ眼差しでレイシアを見ていた。
羨望と、恐怖。
誰もそこから、動けなかった。
「なんです?
これがあなたたちのやっていることでしょう?」
そう言ってレイシアは弓矢を背中にしまいながら、瓦礫をひょいと飛び降りる。
「逃げまどう人間を見つけては、殺す。」
ゆっくりと一歩進む。
「無抵抗な人間を探して、殺す。」
マーガットに近づく。
「罪のない人間を、殺す。」
構えた剣を、ぴたりとマーガットの首に添える。
「今はあなたたちが、殺される側なだけです。」
「くっ…………。」
マーガットがうめいたところで、マーガットの後ろにいた一人の兵士が剣を抜く。
「うわあああ!」
叫びながらレイシアへと剣を振り下ろす兵士を、レイシアは澄んだ瞳で捕らえる。
マーガットの後頭部へ剣の柄を叩き込み、膝をつかせる。さらに返すその剣で兵士の剣を薙ぎ払う。
すごい勢いで弾き飛ばされた剣は、回転しながら飛んだかと思うと、
「ぐぁっ…………………………。」
一人の兵士の胸を貫く。
兵士は血を噴き出しながら、倒れる。
「……ぁ……あ…あ………」
剣を目で追っていた兵士が、異常なほどガタガタと震えながら、小さく声を上げる。
「あなたは私を殺そうとした。
人を殺す覚悟はあったんでしょう?
なぜそんなに震えるんです?」
揺れる脳を無理矢理動かそうと頭を押さえながら、マーガットは肩越しにゆらぐ視界の向こうのレイシアと兵士を見つめる。
「あなたは剣を振るった。
私はそれを避け、たまたまそれがあの兵士に当たったんです。
結果的にはあなたは彼を殺しました。
しかしもともと私をああするつもりだったではありませんか。」
「……ぅ………あ…………」
「それともなんですか?
あなたは人を殺す覚悟ができていなかったということですか?」
そう言ったかと思うと、レイシアは兵士の首に剣をつきつける。