zinma Ⅲ
「………なんで助けた……。」
水蒸気が雲のように立ち上る光景を一度にらみつけ、マーガットは憎々し気にうめく。
「別に。ここで彼等を殺しても殺さなくても、状況は変わらない。意味も利益もない殺しはしません。」
強い風を顔にあび、プラチナ色の髪をそれに遊ばせながらレイシアは穏やかに微笑んでいた。
「ふん。偽善だな!実際貴様はここへ意味なくやって来て復讐のためだけに何十人もの兵士を殺した!!立派な人殺しだ!犯罪者の筆頭だな。」
まだ膝を付いたままで唾を飛ばすマーガットに、レイシアは相変わらず高めの少年らしい声で笑う。
「はは。あなたの考えでは、私は化け物として生まれた時点で犯罪者なのでは?私が化け物であろうと犯罪者であろうとどちらでもいいですが、ここに来たのには理由くらいありますよ。」
そのレイシアの態度に顔をしかめながら、マーガットは黙って次の言葉を待った。
「まずはやはり、西へ行くのにこの要塞が邪魔であったこと。どうしても西へ行きたかったんですよ。」
「……貴様は10年前に東へ逃げたということか?」
「ああ、ちがいますよ。しばらく西に身を隠していたのですが、2年ほど前に旅に出るときに、北へ抜けたんです。」
「ふざけた真似を。一度抜けたのならなぜわざわざこんなことをする?」
「……あのときはまあ、特別な技を使ったので。今回は連れがいまして、彼らにはそれができませんから。それに……」
そこでレイシアが大きく伸びをして、爽やかに声を上げて笑う。
「それに、いつかここは目茶苦茶にしてみたかったので。」
目の前で笑う少年だけを見れば、たいていの人間はいっしょに笑い出してしまうかもしれない。
いつの間にかすっかり日が昇った空は真っ青に晴れ渡っていて、神の力が宿るとか言われる風が、爽やかに吹き抜けていく。
異常な美しさを持った少年が、その景色の中で笑っていれば、ある意味ユートピアのように見えるのだ。
だがその少年の足元にあるのは瓦礫ばかりで、少し離れた場所には焼け焦げた跡と、倒れ伏す何人もの兵士。
マーガットには、地獄絵図にしか見えなかった。