zinma Ⅲ
不気味だった。
その純粋さが。
その美しさが。
「感情がないからこそ人を殺すことに抵抗がない。だから逆に苦労しますよ。
目の前の人間を殺していいのか、悪いのか。いちいち考えなければならない。下手したら私はただの殺人兵器ですからね。」
そう言ってレイシアはあるものに視線を向け、つぶやく。
「あれは宿舎ですよね?」
突然の言葉とレイシアの世間話のような軽い口調に、マーガットは顔をしかめる。
レイシアはマーガットの返事を待つことなく、ゆったりと座ったまま右手をその宿舎に向けて掲げる。
「……?いったい何を……」
嫌な予感にマーガットがレイシアへ手を伸ばしたところで、
「ん。」
そんな声を出して、レイシアが右手を強く握りしめた。
途端。
ドォオォオオオン!!!!!!!
さっきまで高くそびえ立っていた石の塊が、突然崩れる。
「…………な………………」
あまりの突然の出来事に、マーガットはそんな声を上げることしかできなかった。
まるで本当にレイシアが握りつぶしたように、さっきまで目の前にあった要塞はぐちゃぐちゃに崩れ、地震に負けず劣らずの地響きを上げながら地面へと崩れ落ちていく。
爆発的な土煙を上げて消えていく宿舎を、レイシアは涼しい顔で眺めていた。
「………な、なんということを……」
口に広がる鉄の味を感じつつも、マーガットは唇を噛み締めてうめいた。
「……貴様………………っ」
「ああ、言っておきますがあの宿舎には人はいませんよ。」
思わず殴りかかりそうになっていたマーガットは、その言葉に目を見開いた。
「無駄な殺しはしないと言ったでしょう?
あの宿舎にいた人間はすべて気絶させて第二級監獄に閉じ込めてあります。安心しましたか?」
そう言って笑うレイシアに、マーガットはもう動く気力を失った。
あまりにも不可思議な出来事ばかりで、今の目の前の出来事についてとやかく言う気もない。
自分たちがあわてふためくことはすべてこの化け物の遊びにすぎなくて、その遊びにいちいち大袈裟に反応する自分はただの道化でしかなかった。