zinma Ⅲ





もう立ち上がる様子もなく崩れた宿舎を呆然とながめるマーガットに、レイシアは小さく笑う。




「はは。やっとわかりましたか?
あなたは放っておいたらいつまでも私を追いかけそうだから、今回これだけの力わざに出させていただきました。

あなたが追おうとしているのはこういう世界です。カミサマの世界ですよ。

あなたは人間です。」



それをマーガットは微動だにすることなく聞く。




「私のことは忘れてください。
突然悪魔がやって来て、いたずらをして消えた。

それでいいでしょう?」



レイシアは立ち上がった。



「私のような、存在するのにその存在を認められず、実在したのに幻想とされるモノはいるんです。

たとえあなたが真実を語っても、きっとだれも信じない。

そういった世界の真実は、伝説になり、消えていくものです。」



それにマーガットはやっと顔を上げてレイシアを見た。



今の自分がどんな顔をしているのかわからなかった。

ただ今目の前にいる伝説は、相変わらず美しい微笑みでマーガットを見つめていて。




「私の存在はいつか伝説になる。
もしかしたら語り継がれるのかもしれない。

しかし所詮伝説です。
伝説というのは本当のようなお伽話。限りなく不可能に近い奇跡のこと。私の存在は、伝説にされることによって、いつしか嘘偽りの存在となるでしょう。

私が今ここで息をしていることはどう見ても現実なのに、この世がただの人間の統べる世界である限り、信じてもらえはしない。

私はたとえ生きていても、いつかは無かったことにされます。」



そこまで言ってレイシアは突然ふわりと浮いた。


レイシアの身体のまわりを風が包み、マーガットの背丈ほどの高さまで浮き上がる。







「あなたは人間の世に留まり、現実の存在として、真実として、生きなさい。」











それだけ言い残すと、レイシアはふわりと微笑んでゆっくりと身体を倒すと、地上へと落ちていった。




彼のいなくなった空間を、マーガットはしばらく見つめていた。


ただ、呆然と。





< 296 / 364 >

この作品をシェア

pagetop