zinma Ⅲ
もう立ち上がる様子もなく崩れた宿舎を呆然とながめるマーガットに、レイシアは小さく笑う。
「はは。やっとわかりましたか?
あなたは放っておいたらいつまでも私を追いかけそうだから、今回これだけの力わざに出させていただきました。
あなたが追おうとしているのはこういう世界です。カミサマの世界ですよ。
あなたは人間です。」
それをマーガットは微動だにすることなく聞く。
「私のことは忘れてください。
突然悪魔がやって来て、いたずらをして消えた。
それでいいでしょう?」
レイシアは立ち上がった。
「私のような、存在するのにその存在を認められず、実在したのに幻想とされるモノはいるんです。
たとえあなたが真実を語っても、きっとだれも信じない。
そういった世界の真実は、伝説になり、消えていくものです。」
それにマーガットはやっと顔を上げてレイシアを見た。
今の自分がどんな顔をしているのかわからなかった。
ただ今目の前にいる伝説は、相変わらず美しい微笑みでマーガットを見つめていて。
「私の存在はいつか伝説になる。
もしかしたら語り継がれるのかもしれない。
しかし所詮伝説です。
伝説というのは本当のようなお伽話。限りなく不可能に近い奇跡のこと。私の存在は、伝説にされることによって、いつしか嘘偽りの存在となるでしょう。
私が今ここで息をしていることはどう見ても現実なのに、この世がただの人間の統べる世界である限り、信じてもらえはしない。
私はたとえ生きていても、いつかは無かったことにされます。」
そこまで言ってレイシアは突然ふわりと浮いた。
レイシアの身体のまわりを風が包み、マーガットの背丈ほどの高さまで浮き上がる。
「あなたは人間の世に留まり、現実の存在として、真実として、生きなさい。」
それだけ言い残すと、レイシアはふわりと微笑んでゆっくりと身体を倒すと、地上へと落ちていった。
彼のいなくなった空間を、マーガットはしばらく見つめていた。
ただ、呆然と。